コロナ禍のトラブル 朝日新聞も絶賛の「キャバ嬢社長」が従業員に給料未払い

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突然、時給が半額以下に

 ヒトミさんが給与を計算してみると、不当に給与を引き下げられた疑いは濃厚だった。そもそも2月19日に入店したため、3月19日までは保証時給が6000円と取り決めていた。それ以降は売上によって時給が変動するのだが、3月の売上は47万円。店の規定に従えば時給は2500円になるはずだった。

 本来の給与は48万3831円。一方、給与袋に入っていた現金は16万2000円。差し引き、約32万円の未払い分が発生した。

「その場で『なぜ、こんなに少ないんですか?』と質問しました。すると契約書を見せられました。そこには『急遽・無断退店の場合は基本的には給料の支払いは有りませんが、やむを得ない事情での1ヶ月未満の退店は東京都の定める最低賃金とします』と書いてありました」

 ちなみに正式な契約書は1通しか作成されず、店側だけが保管している。キャストには契約書などの内容を要約した用紙が手渡され、急遽・無断退店の取り決めについては書かれていた。

「もう来なくていいと言ったのは、そっちじゃないですか」とヒトミさんは抗議したが、「辞めたいと相談したことを退店申告と見なした」と説明するだけで、全く進展がなかった。ひとまず引き下がったが、ヒトミさんは4人の同僚の女性に連絡を取った。すると、やはり全員が保証時給を半額などに引き下げられていたことが分かった。

「新型コロナの影響で、がくんと客足が落ちました。結局、こんなやり方は、私たち新人のキャストをリストラし、人件費を削減するのが目的だと言われても仕方がないと思います」

 ヒトミさんは労働基準監督署を訪れ、給与明細などを持参して経緯を説明した。すると担当者が決まったが、「新型コロナの問題で様々な問題が発生しており、少し待っていただけますか」と言われたという。

 一方、桜井さんはYouTubeに4月3日、「新型ウィルスに対する経営者としての今の私の気持ち。【緊急会見】」と題する動画をアップし、「コロナでお店を自粛することは従業員と心中することと同じなので従業員を守るためにも自粛はしません」と明言した。

 すると、YouTubeのコメント欄に批判が殺到する事態となった。このため桜井さんは4日に「新型ウィルスへの今後の歌舞伎町のキャバクラの対応について【緊急報告】」の動画をアップ。涙を浮かべながら謝罪し、「4月12日まで営業を自粛する」ことを明らかにした。

 その後、東京都は政府の緊急事態宣言に基づき、4月10日、休業を要請する施設の詳細を発表し、キャバクラを含む遊興施設については休業要請は5月6日まで延長された。

「それでもYouTubeのコメント欄には『4月13日から営業再開してるのは本当ですか?』との書き込みがあります。事実だとしたら問題だと思います。私たちの不当解雇、給与未払いの問題も、野の花さんがしっかり法律を守ろうという意識が低いことを浮き彫りにしているのではないかと思います」(同・ヒトミさん)

 こうした告発に対し、桜井さんは何と答えるのか。4月30日、キャバクラの「花音」に電話すると男性スタッフが応対した。取材申請も行えたことから、営業を再開していることが確認できた。

 後日、桜井さんは記者の携帯に電話をかけ、取材に応じた。まず、営業再開の問題については事実だと認めた上で、次のように説明した。

「私自身の個人的な考えとしては、自粛の必要性は充分に理解しています。営業を自粛できないか検討したのですが、残念ながら実現に至らなかったという経緯があります。私は『桜花』と『花音』以外にも2店舗を経営しており、更に5店舗目のオープンも準備していました。営業している4店舗では家賃の減免などを大家さんに交渉したのですが不調に終わり、5店舗目はキャンセルの時期に大家さんと見解の相違があり、家賃を請求されています。これだけでも1000万単位の“負債”として、私にのし掛かっています」

 もちろん、スタッフを雇用しているため、家賃に加えて人件費も発生している。困り果てた桜井さんは顧問弁護士に相談したという。

「顧問弁護士は『自粛する必要はない』という見解を示し、『営業を再開しても、法的には全く問題ない』と助言されました。確かに店の営業を自粛しても毎月、家賃と人件費は発生します。一方、店を開けば、ほんの少しでも収益が得られます。経営状態が急速に悪化しているということだけは、どうか指摘させてください」

 ちなみに世論の動向を踏まえ、営業再開は全く宣伝していないという。気心の知れた常連客に情報が届き、来店してくれればありがたいというスタンスを選択している。

 一方、元キャストの訴えに対しては、「時給の問題も、退店に至る経緯も、全て契約書で取り交わした条項に則って行いました」と真っ向から否定した。

「御社が取材した女性に心当たりがあるつもりですが、入店してすぐ、年齢の関係から『正直、キャバクラはキャストとして働くのはしんどい』と彼女から言われたこともありました。数回にわたって『辞めたい』と漏らしたことも把握しています」

 つまり、プロ意識が欠如していたことも、大きな要因の1つと指摘するのだ。

 ヒトミさんは近況として「源泉徴収票の発行を店に依頼しているのだが、全く返答がなくて困っています」と明かす。今後も双方で、様々な動きがありそうだ。

週刊新潮WEB取材班

2020年5月11日掲載

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