人気沸騰の「吉村洋文」大阪府知事 私が聞いた“浪速っ子の琴線に触れる発言”

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強運だった「入れ替えW選挙」

 吉村洋文氏は大阪府出身、九州大学法学部卒。顧問弁護士を務めていたやしきたかじん氏(故人)に推されて政治家を目指し、2011年大阪市会議員に当選、14年には「維新旋風」で衆院議員に当選した。翌年には橋下徹市長の辞任に伴い、自民党大阪のエース柳本顕市議団長を破って市長に当選した。当初は橋下氏や松井一郎知事の陰に隠れ、サンフランシスコ市との友好都市をサ市が従軍御慰安婦像を撤去しないことを理由に解消したことくらいが目立った。それも橋下氏が強く主張していたものを引き継いだだけだ。それがコロナ対策では独自性を打ち出し俄然、目立っている。

 かつて「おもろそうやんか。いっぺんやらしてみたらええやん」のようなノリで横山ノック(故人)を知事に選んでしまった浪速っ子。伝統的に「儲かりまっか?」で商売には関心は強いが政治や行政にはさして関心を持たなかった。横山ノック氏を継いだ太田房江元知事についても、彼女の政治よりも「土俵に上がるのか、上がらんのか」が主たる関心事だった印象だ(太田氏は大相撲大阪場所の表彰式で土俵に上がりたがった、相撲協会に「女性は上がれない」と拒否されひと悶着あった)。

 そんな浪速っ子に政治に初めて関心を持たせたのが橋下徹氏であることは間違いない。

 「民の不満」を巧みに掴んでゆく橋下手法を間近に学んだ吉村氏。今回、「あのパチンコ屋まだやっとるで、何とかせえや」「政府の発表では何もわからへん。いつまで我慢したらええんや」など鬱積する府民の不満を敏感に汲み取っては、先手を打つ皮膚感覚、さらには明快な説明力が高く評価されている。

 筆者が出席したある会見で吉村知事は「大阪の人は奔放な人ばっかり、みたいに言われてるけど、いざとなったら全国で一番団結してくださるのが大阪の人なんですよ。去年のサミットの時でも『車で動かないで下さい』とお願いしたら、街から車はさっと消えました」と浪速っ子の琴線に触れるような「持ち上げ」も忘れない。

 記者会見で前を向いているように見せかけて、用意してもらった原稿が映るプロンプターを見なければ何もできない安倍首相の「無能ぶり」が暴露される中、専門家会議などの助言は受けても自身で考え判断、発言する若い吉村氏の姿が評価されている。

 新型コロナウイルス問題では小池百合子都知事、吉村大阪知事を筆頭に全国の知事たちの露出が過去に例がないほどに多い。大阪だろうが横浜だろうが市長には知事ほどの露出はない。昨年4月、世間をあっと言わせた「維新奥の手」の「入れ替えW選挙」で松井知事と交代して大阪市長から知事に鞍替えした。これで今、全国の注目を集めるようになった。危なっかしいが強運な男でもある。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月10日掲載

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