コロナで急逝「岡江久美子さん」 選択肢を奪った厚労省の“壁”

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「急変といっても…」

 自宅待機中にもできることはあったはずだ。

 「週刊新潮」では4月30日号で自衛隊中央病院の取り組みを紹介した。そこでは、患者の異変を察知するために血中酸素濃度をチェックすることの重要性が説かれていた。表面上、無症状や軽微な症状でも、肺炎の症状が進み、1週間から10日後に悪化して現れるケースがあるからだ。それを彼らは「沈黙の肺炎」と名付けていた。彼女も同様のプロセスを辿った可能性は十分にあり得る。

「呼吸困難は気づかぬ間にゆっくり進行します」

 とは、日本医科大特任教授の北村義浩氏。

「息苦しさというのは体感では非常にわかりづらい。瞬間的に富士山の8合目に立てば、息苦しさを感じるでしょう。ですが、時間をかけて3合目から登れば息苦しさは感じない。ですから、急変といっても、ゆっくり進行していることに気づいていないだけなのです」

 そのため、血中酸素濃度を測るパルスオキシメーターが必要だと解説する。

「安静時での健常者の値は96~98%の範囲です。徐々に低下して、90%を切るとかなり危ない状態で、すぐに病院に行くべきです。陽性者の入る宿泊施設では検温とパルスオキシメーターが用いられていますが、今後は自宅待機している陽性者、また、岡江さんのようにPCR検査前でも陽性が疑われるような場合は、厚労省が指示し、自治体がパルスオキシメーターを貸すなどの対応をして、血中酸素濃度を測った方がよいと思います」(同)

 加えて、岡江のように最後の別れさえさせてもらえないのか。

 感染者が病院で亡くなった場合、遺体を納体袋に入れて納棺。目張りされ、火葬場に直行するという運用が現在はなされている。

 だが、厚労省が出している火葬についての指針では、

〈葬儀の実施など、できる限り遺族の意向等を尊重し〉

〈遺体に直接触れることを希望する場合には、遺族等に手袋等の着用をお願いしてください〉

 そう記され、「最後の別れ」を危険として禁じてはいないのだ。葬儀関係者が声を潜める。

「感染防止の観点から医療機関での納棺、目張りまでを葬儀社よりお願いしています。病院でお顔をご覧いただくにも、防護服も不足していますし……。特に東京23区内は民間の火葬場が大半で、火葬にご遺族が立ち会うことを業者が自主的に規制しているのです」

 遺族に納体袋の故人と対面させ、お別れさせている業者もあるという。要は多くの業者が感染と責任を恐れ、過剰な対応をしているだけなのである。

週刊新潮 2020年5月7・14日号掲載

特集「『コロナ』光と影」より

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