ポストコロナでもサバイバル もつ焼き居酒屋「串屋横丁」の驚くべき経営

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損益分岐点を下げ、リピーターをつくる仕組み

 これまで最も力を注いだものは「理念教育により高いモチベーションを持ったチームづくり」、続いて「トレンドに左右されない業態づくり」ということだ。業態寿命という言葉とは無縁の「もつ焼き居酒屋」を徹底的に磨き上げて個人店にもチェーン店にも負けないクオリティをつくり上げることに力を傾けた。

 2011年の東日本大震災の時に「串屋横丁」チェーンの売上が激減した。そこで、安定して利益を確保できる経営体質をつくるために、冒頭で述べた「損益分岐点を極力下げること」「店長・社員のモチベーションを高めること」「店に根強いファンが存在すること」を目指して以下のような仕組みづくりに取り組んだ。

(1)主要食材のホルモンは屠畜場の組合員となり、養豚業者から直接仕入れることで中間マージンを劇的に削減し、店舗での仕入れ額を大幅に減らした。損益分岐点を下げたがホルモンのクオリティは高い。

(2)本部のある千葉県茂原市に工場をつくり、ここで「串屋横丁」50店舗全店の仕込みを行い、店舗では仕込みをしないようした。工場の人員は製造部20人、配送部6人、受注部1人で26~27人の体制。店舗で仕込みをすることに換算すると1店舗当たり0.5人となる。店舗で仕込みを行うと1店舗当たり3人が必要となるが、「串屋横丁」の全体で毎日130人の人員削減を実現し、年間の人件費では2億5000万円以上を削減していることになる。

(3)これによって、店舗での仕込み時間はなくなり、店長・社員は余裕を持って働くことができる職場環境が整った。

(4)上記の体制によって「もつ焼き居酒屋」としての業態を専門特化することにつながり、厨房面積を小さくし、坪当たり席数を大幅に増やすことができた。

(5)リピーター対策として「ドリンクパスポート」というカードを作成。これは5回店舗を利用すれば、以降毎回1杯無料でお酒が飲めるというもの。これによって広告宣伝費を全廃した。ちなみに、「串屋横丁」が近接出店している浅草橋、人形町、小伝馬町では1杯無料で店を巡るリピーターが多数いるという。

 また、宴会需要や団体需要には重きを置いていない。インバウンド対策も強く行っていない。大切にしているマーケットは、その街に住んでいたり、その街で仕事をしている人々だ。

高い給与制度で店長・社員の検討に報いる

 さらに、非常識と思えるような給与制度をつくり上げた。

 まず、店長の給与制度。固定給は月24万円で変わらない。しかし、これに歩合給制度が加わる。店長が受け持つ店の規模(席数など)によって歩合の条件は決まってくる。

 一番大きな店は歩合給が80万円、一番小さい店の場合45万円程度。一番大きな店の店長は固定給+歩合給に残業代などがついて月の給料は110万円程度、一方の小さい店の店長は75万円程度になる。

 店長には異動がなく、日報もない。営業に差支えがなければ店に出勤するのは何時でもいい。ただし店長としての業務を全うしないと解任となる。

 各店舗には店長を目指す人がたくさんいる。固定給は店長よりも高く設定されて年間340万~350万円。これに加えて会社が決めた利益目標をクリアすると毎月10万円が給付される。さらに残業代が加わって年収500万円程度になる。

 さらに、予算を「前年の80%」とした。これによって外的要因で店の売上が下がっても本部の利益は確保できて、また店長・社員の高いモチベーションによって売上は前年を保つことができている。

「全ての経費はお客さまのために」――これがドリーマーズの経営方針である。

 これによって、「無駄なことの全てはお客さまのためにならない」という考え方に至っている。社内で行うイベント、ルール、組織、中間管理職等々、例えばスーパーバイザーが店舗を回って歩くということも無駄なものと考えている。そこで、評価制度や組織を撤廃した。それは、「当社の社員を評価するのはお客さまです。お客さまの『良かったよ』という評価が『売上』に結び付いてくる」(中村氏)と考えているからだ。こうして2等立地、3等立地でも地域の顧客との結びつきを強くしてよく繁盛している。

 現在はチェーンの中で休業を余儀なくされている店舗も出てきているが、新型コロナウイルス禍が終息に近づくにつれて、「串屋横丁」が平時の繁盛風景に戻るスピードは速いことであろう。

千葉哲幸(フードサービス・ジャーナリスト)
ライバル誌である柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』両方の編集長を歴任するなど、フードサービス業界記者歴三十数年。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月8日掲載

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