クルーズ船112人治療で「院内感染」ゼロ!「自衛隊中央病院」はなぜ奇跡を起こせたのか

国内 社会

2020年04月30日

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血中酸素濃度の測定

 食事も様々な要望があり、献立一つ決めるのにも苦労があったようだ。

「食事の配膳や着替えの回収は看護師が行いました。洗濯する際には、ウイルスをまき散らさないように、『アクアフィルム』という特殊な袋に詰めて洗いました」

 アクアフィルムとはウイルスを拡散しないために使われる水溶性のランドリーバッグのことだ。ホテル業のような気づかいと苦労もあったようだが、田村氏からは、

「できるだけサービス向上に努めました」

 と厳しさの中にも微笑ましい言葉が返ってきた。

 また、患者の治癒と同時に、部下にあたる医師・看護師・放射線技師・臨床検査技師などのスタッフを何としても感染から守りたいとの熱い思いが伝わってきた。アメリカNIOSH(国立労働安全衛生研究所)が認可したウイルス防護マスク、N95の着脱一つとっても、感染管理認定看護師3名の支援を受けて、徹底的に訓練したという。認定看護師というのは、熟練した技術と知識で高水準の看護が出来ると日本看護協会が認定した人たちだ。

 重症患者対応チームの医師たちは、24時間態勢で治療に当たった。

「日勤者がそのまま当直をこなし、明けた翌日再び日勤をすることもありました。比較的軽症の患者を診た医師たちも、患者数が多かったことから、全員の病状フォローやカルテの書き込みと整理など、かなりの長時間勤務を強いることになりました」

 112人ものコロナ感染者と向き合いつつ、医療スタッフに誰一人感染者を出さなかった背景を知ることは、日本だけでなく、院内感染に苦悩する諸外国にとっても重要だと思う。

 自衛隊中央病院の取り組みの記録は、コロナと闘う各病院が、院内感染から医療崩壊につながる最悪のシナリオを阻止するうえで大いに参考になるだろう。

 東京、大阪など自治体では、軽症者や無症状者にホテルで療養してもらうシステムが稼働しているが、それに関連して田村格・1等海佐はこう述べた。

「感染予防について経験ある人の助言を受け入れ、宿泊施設の構造を考慮したゾーニングを徹底すれば、やっていけるでしょう。その場合、専門家による事前の指導、スタッフの十分な訓練と防護資材の準備は必須と考えます」

 ホテルには医師と24時間態勢の看護師が詰めているというから、一連の取材を教訓に私はこう提案したい。

 ホテルにぜひ、血中酸素濃度を測定する器具を置き、感染者に異変がないか、毎日チェックを行ってほしい。さらに、頻呼吸についても同様の監視を怠らない。「沈黙の肺炎」から、死に至る患者を守れるのだから。

 何より、新型コロナウイルスとの戦いは、長期戦の様相だ。医療システムの継続こそ社会の安定につながる。

石高健次(いしだかけんじ)
ジャーナリスト。1974年朝日放送入社。「サンデープロジェクト」の特集をはじめ、2011年の退社まで数多くのドキュメンタリーを手掛ける。横田めぐみさん拉致報道で97年新聞協会賞。アスベストによる健康被害を掘り起こし、06、年科学ジャーナリスト賞。

週刊新潮 2020年4月30日号掲載

特集「『コロナ』生死のカギ」より

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