クルーズ船112人治療で「院内感染」ゼロ!「自衛隊中央病院」はなぜ奇跡を起こせたのか

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「ゆっくりと進行」

 入院時、軽症が41・3%、重症26・9%だが、全期間にわたって診察で全く症状や所見を認めなかった人が31・7%にのぼったという。

 私が衝撃を受けたのは次の点だ。

「軽い症状の人で、普段なら一般の病院やクリニックにすら行かないだろうと思われる人が多かった」

 これは、今しきりに脅威といわれる、感染経路が分からない人が多いことと符合する。

 WHOのテドロス事務局長が、2月27日の会見で感染者の症状について、「鼻汁はあまり出ない。90%の人は発熱し、70%は空咳を伴う」と述べたが、田村チーム長はその発言を「有症状者について限った話と捉えるべきだ」としている。これは、背後にある無症状或いは軽微な者への注意喚起を怠らないようにとのメッセージでもあろう。

 田村チーム長の話を続けよう。

「無症状・軽症の感染者も、CT検査にかけるようにしていました。その際、異常が認められるものが約半数に上ったが、それらの多くは、単純なレントゲン撮影では指摘されないようなケースが多かった」

 レントゲンで異変を見逃すリスクを避けるためにも、CTの活用が有効のようだ。

「CTで異常な影を認めたうち、約3分の1はその後、症状が悪化しました。それも初めて症状が現れてから7~10日目であることが多く、比較的ゆっくりと進行した」

 それを彼らは、「Silent Pneumonia」(沈黙の肺炎)と名付けた。私が、はっとしたのは、テレビなどで専門家がしばしば「急激に悪化するから怖い」などと発言するのを耳にしていたからだ。確かに臨床の現場からも「朝、比較的元気だった患者が夕方には呼吸が苦しくなって重篤化した」という話がよく聞かれる。田村氏の証言はこれとは少し異なる。

 表面上、無症状だったり、症状が治まったりした患者について、症状悪化が緩やかに進むのをどうして察知できたのか? コロナ肺炎を重症化させないために極めて重要なポイントだ。

「高齢者ではSpO2(血中酸素飽和濃度)の低下、若年層では頻呼吸、すなわち呼吸数が増えることで気が付きました」

 SpO2というのは、人差し指の先に洗濯ばさみ様の器具を挟んで測定される。パルスオキシメーターと呼ばれるもので、血液中の酸素濃度96%以上が正常といわれる。これ以下に下がらないかを監視するわけだ。

 また重症者の中には命の危機に瀕し、酸素吸入を行った患者もいた。

「死亡のリスク要因には、一般に高齢と基礎疾患がありますが、そのいずれもがないのに重症化した例が少なからずありました」

 一体何が起きているのか、そうした人たちの共通項は何なのか。

「残念ながら、現時点ではわかりません。今後のデータ集積が必要です」

 中央病院でPCR検査は無論広く行われた。

「クルーズ船内で感染者と同室だった家族や濃厚接触した人にCT検査をした結果、新型コロナウイルス肺炎の特徴である『すりガラス様陰影』が認められました。しかし、PCR検査では陰性と出たケースが少なからずあったのです」

 PCR検査については、以前精度に問題があることを指摘したが、それを物語る事実である。

 今もテレビでは専門家が「PCR検査をもっとやるべきだ」と声高にコメントするのを見る。勿論、受け入れる医療システムのキャパの範囲ならば、どんどん検査をすればよい。しかし、病院そのものがクラスターの発生源になり医療崩壊紙一重の今、軽症者が検査のため医療機関に殺到するのは避けなければならない。

 東京や大阪などでは自治体がホテルなどの宿泊施設を借り上げ軽症者に療養してもらっているが、世話をするスタッフの感染防護装備不足も心配だ。

 そのPCR検査だが、中央病院でも当初、検体を採取して外部の検査機関へ送っていた。結果が分かるまで1週間ほどだったという。

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