「コロナ退治でスクラム組もう」… 唐突に日本にすり寄る韓国人の底意

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2020年4月27日掲載

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同じ記者が「反射利益」を非難

――韓国人が心の底でどう考えているのか、よく分かる記事です。

鈴置:今回も韓国紙に「本音」が噴出し始めたな、と見ていました。ところが「日本の肺炎拡大を喜ぶな」と説く記事が唐突に載ったのです。

 それも書いたのは「チャンスだ」と小躍りした、あのナム・ジョンホ論説委員なのです。中央日報の「日本のコロナ感染拡大、喜ぶことか」(4月14日、日本語版)のポイントを、文章を整えて引用します。

・日本の新型肺炎の感染者数が急増するにつれ、関連する記事に(読者からの)反日コメントがあふれる。「地獄の門が開かれた。1万人突破は時間の問題」「(日本は)絶対に助けてはいけない」――背筋が凍る内容ばかりだ。
・日本の感染拡大を心配しなければならない理由は人道主義のためだけではない。在日同胞だけで60万人、日本への留学生も1万7000人になる。
・コロナで日本経済が消える場合、韓国側が反射利益を得るとの期待もあるようだ。日本企業が低迷すれば、ライバルの韓国企業の海外占有率が高まるという論理だ。だが、他の外国にも競争者が山ほどいる世の中だ。日本が失った分をすべて韓国企業が占めるとの保証はない。
・最大の悩みは半導体・ディスプレー・化学製品など多くの戦略品目の核心材料・部品が依然として日本製だという点だ。部品を納品していた日本メーカーが止まれば、これら業界はもちろんのこと、水素自動車・人工知能(AI)・バッテリーなど未来を拓く産業も決定的な打撃を受けるほかはない。
・韓国と日本がこれまでどのような葛藤を繰り広げてこようが、今は戦いをやめる時だ。

 同じ人が書いた記事とは思えません。たった2週間前の記事では「韓国が反射利益を得る」と喜んでいたのに、この記事では「反射利益を期待してはいけない」と主張を一転しました。

「背筋が凍る」と非難された読者からすれば「2週間前のお前の記事こそ『背筋が凍る』ぞ」と言いたいでしょう。「在日同胞もいる」「韓国産業が打撃を受ける」とも言い出しましたが、そんなことは前から分かっていた話です。

オーナーの足を引っ張る

――ナム・ジョンホ論説委員はなぜ、変節したのですか?

鈴置:私も首をひねっていたのですが、8日後の4月22日になって、ようやく理由が分かりました。中央日報が「『共通の敵』に直面した韓日、争いやめて防疫協力を」(日本語版)を載せたからです。

 4月20日に開かれた「韓日ビジョンフォーラム」というシンポジウムを詳報した記事です。冒頭から「出席者は『両国はパンデミック(世界的大流行)克服のために争いをやめて協力しなければいけない』と口をそろえた」と協調ムードを打ち出しました。

 すべての出席者の主張が紹介されましたが、最後に登場したのが主催者「韓半島平和構築」財団の洪錫ヒョン(ホン・ソクヒョン)理事長。

「パンデミックという圧倒的なイシューの中で現在の韓日葛藤は相対的に小さな事案だ。両国が協力しない理由はない」と訴えました。洪錫ヒョン理事長は中央日報の前会長で、現在も実質的なオーナー。つまり「韓日協力」はトップが定めた社論です。

「日本の没落を活用しよう」と書いてしまったナム・ジョンホ論説委員は、社内でまずい立場に立たされたに違いありません。そこで、オーナーの足を引っ張ることになった記事を180度軌道修正し、新たな記事で上書きしたつもりと思われます。

感染拡大は抑え込んだものの……

――なぜ、中央日報は「韓日協力」路線を打ち出したのでしょうか?

鈴置:「共通の敵に立ち向かう」という美しい理由だけではないはずです。韓国には「日本との協力」が必要不可欠になったからです。日本との通貨スワップです。専門家ならだれもがそう考えます。

 韓国経済新聞の4月15日の社説「自国民の帰還で互いに助け合う韓日、関係改善の機会にせよ」(韓国語版)がその典型です。

 見出しの「自国民の帰還で……」は日本や韓国の政府がアフリカやインドなどに取り残された自国民を航空機で連れ帰った際、席に余裕があれば他の国の国民も乗せたことを指します。

 日本の便に外国人の一部として韓国人が乗ることもあったし、その逆もあった。画期的な協力というわけでもないのですが、韓国経済新聞はこれを基に以下のように主張したのです。

・コロナ危機克服は1つの国の努力だけでは不可能だ。感染症の終息はもちろんのこと、崩壊したグローバル供給網と交易の復元にも国際共助が必須だ。
・日本もコロナ感染者数が1万人に近づき、焦眉の急である。金融市場の安全網になるべき韓日通貨スワップの再開と外交・安保関係の正常化という我々の課題もある。
・これまでの惰性で「見もせず、会いもしない」では解決策に成りえない。困難な時に差し出す手は深まった感情の溝を埋め、関係改善の突破口となるであろう。

 新型肺炎の流行はとりあえず抑え込むことに成功した韓国ですが、経済の先行きには暗雲が漂っている。韓国の経済専門家の間では「日韓の間で通貨スワップを再開しておかないと、通貨危機に襲われかねない」との恐怖が広がっているのです。

 中央日報は4月27日、権泰煥(クォン・テファン)韓国国防外交協会会長(予備役准将)の寄稿「コロナ危機に対応するため韓日が手を握るべき」(日本語版)を載せました。安全保障の専門家が書いたこの寄稿でも「日韓通貨スワップ」の必要性が叫ばれたのです。

貿易赤字の懸念が4月に急浮上

――韓国はドル不足に陥ったのですか?

鈴置:火急の事態、というほどではない。でも、このままいくと危ない。韓国の貿易収支が赤字に転じ始めたからです。過去の通貨危機は貿易収支が赤字か、黒字でもその幅が急速に減った時に起きています。貿易赤字への懸念が浮上したのは4月に入ってからです。

 4月1日―20日までの通関統計を見ると、輸出額が前年同期比26・9%減の217・29億ドル。これに対し、輸入額は同18・6%減の251・84億ドル。原油安というハンデをもらいながら、輸入以上に輸出が減ったのです。

 この結果、4月の上・中旬の貿易赤字は34・55億ドルにのぼりました。4月は海外への配当送金も実行されますから、単月の経常収支はかなりの赤字に陥る可能性が高い。

 その赤字が引き金となって、激しいウォン売りが起きてもおかしくない。すでに韓国からの資本流出が始まっています。

 韓国銀行の「2020年第1四半期 外国為替銀行の外貨取引動向」によると、この期間の1日平均の外国為替取引高は593・7億ドルと、前の四半期に比べ9・2%増えました。世界的な株価暴落が原因です。

 外国の株価に連動する金融商品を販売していた韓国の証券会社が追加証拠金を海外に送金したことに加え、外国人が韓国株を手仕舞ったためと韓銀は見ています。いずれもウォンをドルに交換する取引が発生します。

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