巨人が敏腕スカウト部長を更迭 “不可解すぎる人事”の背景は……

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 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、いまだにシーズン開幕が見えない今年のプロ野球。その影響はアマチュア野球も同様で、どのカテゴリーでも公式戦が始まらず、各球団のスカウト活動も実質休止状態だ。

 ただ、そんななか、気になるニュースが飛び込んできた。4月1日付で、巨人が長谷川国利スカウト部長の編成本部長付部長への人事異動を発表したのだ。また、水野雄仁巡回投手コーチ、高田誠ファームディレクターのスカウトへ異動となり、当面スカウト部長を置かない体制になるという。この時期にスカウトの人事異動が発表されることは異例のことだが、一説には、昨年のドラフト1位で獲得した堀田賢慎投手がトミー・ジョン手術を受け、2位で獲得した太田龍投手もコンディション不良で出遅れたことが影響しているとも言われている。

 しかし、巨人編成陣の突発的な人事異動は今回が初めてではない。2016年までは山下哲治氏が長くスカウト部長の座にあり、長谷川氏も山下氏の元でスカウトを務めていたが、17年からはメンバーを大幅に刷新。巨人一筋で一軍ヘッドコーチも務めた岡崎郁氏が新しくスカウト部長に就任し、その年の6月にはかつてリリーフエースとして活躍した鹿取義隆氏をGM兼編成本部長としている。

 だが、チームは17年に4位、18年も3位と優勝を逃し、その責任をとる形でドラフト直前の同年10月に鹿取GMは退任し、岡崎部長も別部門へ異動。長谷川氏がスカウトに復帰して部長となっていた。そして長谷川氏もスカウト部長となってわずか1年半で、再び異動となったのである。

 まず、不可解だったのが鹿取GM、岡崎スカウト部長体制である。鹿取氏は1999年代後半から2000年代前半にかけてコーチを務めた後、第1回WBCと第1回プレミア12でも投手コーチを務めており、基本的に現場での経験を積んできた人物である。岡崎氏もまた、06年から15年までコーチと二軍監督を歴任しており、いわゆる“ユニフォーム畑”の人間である。その二人をいきなり編成、しかも岡崎氏に至っては経験したことのないアマチュアスカウト部門のトップに置いたのである。選手の発掘や推薦はもちろん担当スカウトの仕事であるが、スカウティング部門について知らない人物が最終的な決断をするというのは荷が重かったと言わざるを得ない。少なくともGM、スカウト部長のどちらかは編成、スカウト経験者を置いておくべきだったのではないだろうか。

 今回の人事についても、もちろん大いに疑問が残る。堀田は確かに故障で出遅れているが、完全な素材型のドラフト1位であり、今年の成績がどうこう言われる選手ではない。また、太田についても社会人出身ながら決して即戦力というタイプではない。もし、現場がメジャーに移籍した山口俊(現・ブルージェイズ)の穴埋めを期待するのであれば、それはドラフトではなく他の補強で補うべきだろう。また、巨人は二軍、三軍が積極的にアマチュアチームと交流戦を行っており、その中でドラフト候補を視察する際に阿部慎之助二軍監督も助言をするという報道も出ていた。

 今回の人事でも、巡回コーチとファームディレクターの二人のスカウト兼任も発表されている。スカウティング部門と現場が連携することは重要であるが、選手の発掘や調査は一朝一夕にできるものではない。そういう意味でのスカウティング部門の“軽視”も気になるところだ。

 そして、鹿取氏と岡崎氏、今回の長谷川氏とどちらの人事異動についても同様に言えることは、ドラフトの結果を早急に求めてプラスはないということである。もし、このような人事が続くようであれば、編成トップ、スカウト陣ともにすぐに使える選手ばかりを指名することに繋がりかねない。そうなれば、4番バッターに成長した岡本和真のような選手を避けるようになり、どんどんチームのスケールが小さくなっていくことは間違いないだろう。また巨人は16年から4年連続でドラフト1位の入札を2回続けて外しており、その中での指名だったということも考慮すべきである。

 オープン戦で9連敗を喫するなど、シーズン開幕に向けて不安要素の多い巨人だが、問題はグラウンドの外にもありそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年4月18日掲載

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