「コロナで西洋の時代が終わる」と小躍りする韓国人、それを手玉にとる中国人

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「白人優越主義」と米国批判

 中国は「韓国籠絡(ろうらく)作戦」を新型肺炎でも発動しています。中国共産党の英語による対外宣伝紙、Global Timesは3月31日、「Rise of US white supremacy portends new cold war or worse」を載せました。

 見出しの「米国の白人優越主義」が示すように、「西洋VS東洋」の対立の構図で世界を描いています。要は「米国が世界平和を乱す」との主張ですが、その際に敢えて「白人優越主義」を言い立てたのです。

――米国が白人優越主義を唱え始めたのですか?

鈴置:まったくのねつ造です。この記事は「米国で沸き起こる白人優越主義」の例として、トランプ大統領の元側近、バノン( Stephen K. Bannon)氏の発言を挙げています。

・Bannon has said that the Chinese government is "an existential threat to the Chinese people and to the world, not just the US." This is a typical statement aimed at gaining political support by pitting China and the world against each other. People like Bannon are actually spokespersons for white nationalism and white supremacy, and they label China an enemy to realize their political goals.

 バノン氏が中国共産党を激しく非難したのは事実です。でもそれが「白人優越主義」に結び付くとの証拠を、この記事はどこにも示していない。

 この次の段落には「白人のナショナリストは異なるイデオロギーを採用する国は敵と見なす。かつての敵はソ連だったが、今は中国である」とのくだりがあります。

・white nationalists believe in an extreme way that their ideology must be spread and accepted by others, and any country that adopts a different ideology is labeled an enemy. They also attempt to unite Americans by making up an enemy. This enemy was once the Soviet Union, and now it is China.

 ソ連を構成する人々の多くは「白人」だったわけですし、異なるイデオロギーを敵視するのは「白人」に限りません。ここまで来ると無茶苦茶です。

 上司から、とにかく「白人VSアジア人」――「西洋VS東洋」の図式で書け、と命じられた記者が無理やり書いている感じです。

もう、同盟は時代遅れだ

――どうしてそんな無理筋の記事を載せるのですか?

鈴置:「米国VS中国」の認識が広まるのは、中国にとって必ずしも有利ではないからでしょう。確かに新型肺炎による米国の死者は中国の公式発表の数字を超えた。「中国のシステム」の方が優れているのかもしれない。でも、「うまくやった国」は嫉妬も買う。そもそも新型肺炎の世界的な流行は中国の隠蔽から起きたのですから。

 それに露骨に「米国VS中国」の構図を示されれば、警戒する人が多い。例えば、韓国の保守は「新型肺炎で失敗した米国から離れ、うまくやった中国側に行こう」と言われれば反発するでしょう。

 しかし、そこをオブラートに包んで「これからは東洋の時代だ」「西洋が世の中を決める時代は終わった」と言われれば、彼らの多くも釣られると思います。「戦勝国」の称号に釣られ、中国の抗日式典への参加を喜んだように。

 Global Timesはすかさず二の矢も放っています。翌4月1日に載せた論説は「Post-pandemic international relations could change for the better」です。

 見出しを見て「新型肺炎が終わった後に『よくなること』なんてあるのかな?」と首をひねって読むと、何のことはない、「同盟はもう役に立たない。人類の未来を共有するコミュニティを創ろうという中国の夢に結集せよ」との宣伝でした。

・The strict adherence to alliances as a dominate force in the international order is losing appeal. In the face of severe situations, the world will eventually turn to coordination and cooperation.
・China's vision of building a community with shared future for mankind is being better understood through the mutual help between China and countries like Japan, South Korea and Italy.

懐柔は米国より中国が上手

――中国が繰り出す懐柔工作に、米国は?

鈴置:ハリス(Harry Harris)駐韓大使が左派系紙、ハンギョレに寄稿しました。「人類共通の敵、コロナウイルスに対し共に戦おう」(3月29日)です。韓国語版ですが、英文も付いています。

 韓国の新型肺炎への対応をほめそやしたうえ、米韓同盟の重要性を強調しました。韓国人が「韓国はすごいぞ!」と自己満足に浸っている今、おだてながら同盟のありがたさを知らしめる、との狙いでしょう。反米色の濃いハンギョレに寄稿したのも、そのためと思われます。

――韓国人はおだてに乗りますか?

鈴置:記事への読者の書き込みはたったの3本。1本は「大使さま、その通りです」と賛成するもの。残りの2本は防衛分担費の大幅の引き上げを求めてくる米国に、強く反発する書き込みでした。

「同じ舟に乗るパートナーと言いながら、5倍に引き上げるのか」と、「自分たちに必要な時だけ同盟を持ちだす。分担費の過度な要求は何だ」です。

「韓国を支配する米国」への怒りの表明です。この2本だけで判断はできませんが、書き込みの少なさから見ても、大使の寄稿が韓国人に広く共感を呼んだとはとても思えません。

 韓国人が心の奥底で何を考えているのか、見切ったうえで書いたとは言いにくい記事でした。この辺は米国と比べ、中国がはるかに上手です。中韓は1000年以上も宗主国と属国の関係にあったのですから、当然ではありますが。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年4月13日掲載

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