「コロナで西洋の時代が終わる」と小躍りする韓国人、それを手玉にとる中国人

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アジア主義が突然、噴出

――韓国で「アジア主義」が突然、噴出したのですね。

鈴置:新型肺炎が米中の覇権争いを激化させる、との見方が一般的になりました。冒頭の写真は「BSフジ LIVE PRIME NEWS」が4月3日の放送で使ったものです。

 米国が同盟国に為替スワップを与え、新型肺炎に伴うドル不足の面倒を見る。それに対抗する形で中国は、取り込みたい国にマスクや医療陣を送る――という構図を分かりやすく示しています。

 米外交誌、Foreign Policyが識者12人の「新型肺炎後の世界予測」を紹介しています。「How the World Will Look After the Coronavirus Pandemic」(3月20日)です。

 うち3人が対立激化など「米中関係」の視点でも語りました。もっとも、「東洋が西洋を圧する」との見方は主流になっていません。だから、韓国でのアジア主義の突然の噴出に私も少し驚きました。

――「東洋優位」論者は全くいないのですか?

鈴置:いないわけではありません。3人のうち、ウォルト(Stephen M. Walt)ハーバード大学教授が「新型肺炎が西洋から東洋への力と影響力の移動を加速させる」(COVID-19 will also accelerate the shift in power and influence from West to East. )と言っています。

 ただ、日本でも「これで西洋が没落する」とか「東洋が覇権を握る」といった見方は広がっていません。一方、韓国では「西から東への覇権の移動」が定番の論点になり始めた。この認識の差が興味深いのです。

絆社会とゆるい社会

――韓国では「覇権シフト」への期待感が高い……。

鈴置:そう思いたいためでしょう、かなり無理筋の記事もあります。先ほど引用したコ・デフン首席論説委員の「西洋優越主義の終焉?」には「儒教文化が評価された」というくだりがあります。

――本当に世界で儒教が評価されたのですか?

鈴置:虚報です。この記事は根拠として以下のような「具体例」を示しました。

・ニューヨークタイムズ(NYT)のコラムニスト、トーマス・フリードマン(Thomas Friedman)は、アジアの「強い絆社会」と米国・イタリアのような「ゆるい社会」を比較した。
・そして、「個人の自由よりも規律を掲げる(アジアの)文化は危機の時に社会の結束を強化する」とした。東洋の価値が「コロナの後」のニュー・ノーマルになる可能性があるという意味だ。

 ところが、「強い絆社会」と「ゆるい社会」を論じたフリードマン氏の記事を読んでみると「東洋優位」とは一言も語っていないのです。

Our New Historical Divide: B.C. and A.C.—the World Before Corona and the World After」(3月17日)から、その部分を引用します。

・ “Tight societies, like China, Singapore and Austria have many rules and punishments governing social behavior. Citizens in those places are used to a high degree of monitoring aimed at reinforcing good behavior. Loose cultures, in countries such as the United States, Italy and Brazil, have weaker rules and are much more permissive.”
・These differences in tightness and looseness, she argued, were not random: “Countries with the strongest laws and strictest punishments are those with histories of famine, warfare, natural disasters, and, yes, pathogen outbreaks. These disaster-prone nations have learned the hard way over centuries: Tight rules and order save lives. Meanwhile, cultures that have faced few threats — such as the United States — have the luxury of remaining loose.”

オーストリアも儒教国家?

 まず、「強い絆社会」と「ゆるい社会」の比較はフリードマン氏自身の所説ではなく、心理学者、ゲルフェンド(Michele Gelfand)メリーランド大学教授の意見を紹介したものです。

 そして、上記の引用を読めばすぐに分かりますが、「強い絆社会」と「ゆるい社会」を分かつのは飢餓、戦争、自然災害、感染病の流行の経験の有無とされています。東洋と西洋の差などとは一言も書いていません。ましてや、「儒教」には一切、言及していません。

 具体的な国名も挙げていますが、「強い絆社会」の国は中国、シンガポール、オーストリア。「ゆるい社会」は米国、イタリア、ブラジル。オーストリアは東洋の国でも儒教国家でもありません。

 コ・デフン首席論説委員は原典を捻じ曲げ「東洋が優れている」との結論に強引に持って行ったのです。

――そこまでして「東洋はすごいぞ!」と言いたいのはなぜですか?先進国――西洋コンプレックスからでしょうか?

鈴置:それもあると思います。ただ、劣等感だけでは説明がつかない。韓国ではすでに「我が国がもっともうまく新型肺炎に対応したと世界で認められた」との認識が広まっています(「コロナ対策で『文在寅』の人気急上昇 選挙を控え『韓国すごいぞ!』と国民を“洗脳”」参照)。

 せっかく「韓国が世界1」ということにしたのに、「栄光の座」を東洋に広げることで、自分への高評価を薄める必要はない。それに「東洋」でくくれば、あの不愉快な日本まで入ってしまうのです。

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