【コロナ禍】高3受験生も「全く授業がない」異常事態 都立の名門「日比谷・西・国立」に取材した

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「期待が半分、不安が半分」

 日比谷高校の「三大行事」と言われているのが、5月の体育大会、6月の合唱祭、9月の星稜祭、つまり文化祭だ。

「特に高3生は、入学から2年間の経験も踏まえて、高校最後となる行事に強い想いを持っていた生徒も少なくありません。例年であれば、行事に全力を尽くしてから、『さあ、いよいよ大学受験だ』と切り替える生徒もいました。ところが今年の場合は、なかなか切り替えられない生徒がいるのではと心配しています」(同・武内校長)

 読者の中には「日比谷高校の生徒くらい優秀なら、自習でもしっかりと勉強できるのではないか」と考える向きもあるかもしれない。だが武内校長は「生徒たちの学力形成については心配しています」と不安を率直に明かす。

「どんな高校生でも、自宅で1人きりで勉強を続けるのは、モチベーションが続かなくて当然でしょう。学校で友達と一緒に学ぶメリットは数えきれません。クラスという集団に対して授業を行うのは、やはり大きな意味があるのです」

 日比谷高校は、「将来、各界でリーダーとして活躍できる生徒になってほしい」という目標を掲げている。実現を目指すためにも、教室での授業は大事だという。

「日比谷高校は、短期的な大学受験対策だけを授業の目的とはしていません。リーダーシップを養成するためにも、例えば授業で対話を重視してきました。教師と生徒の対話だけでなく、生徒同士の対話を促す内容です。国語や英語はもちろん、より様々な教科で取り組みを重ねてきました。こうした授業が少なくとも5月までできないわけですから、その損失は決して小さくはありません」(同・武内校長)

 西高校の萩原聡校長に「高3生は自習ができますか?」と質問すると、「半分は大人、半分は子供という年齢ですからね。『やってくれる』という期待が半分、『やってくれるかな』という不安が半分というところでしょうか」との答えだった。

「毎年、同じであるとは言えます。自分を律して勉学に励むことのできた生徒は、志望の大学に合格します。それができなかった生徒は、残念な結果に終わるものです。とはいえ、新型コロナにまつわる現状は、人生で何度も経験するようなものではありません。生徒への影響は、未知数というのが正直なところです」

 しかし萩原校長は、「どれだけ学校や生徒にとって厳しい状況でも、世の中の状況は、更に比べものにならないほど厳しいのは事実です」と指摘する。

「勉学や学校行事に弊害が出ているとはいえ、私たちが直面しているのは新型コロナということを忘れるわけにはいきません。西高校の生徒は、もちろん自分の身を守ることが重要ですが、それ以上に他者の命を守ることが求められています。新型コロナ対策が生徒を成長させるきっかけにもなると、プラスに受け止めることも重要でしょう。特に高3生は自習だけでなく、新型コロナに関する書物を読んだりして、今、世界で起きている現象について考えを深めてもらいたいですね」

 西高校は一昨年からスマホを使った授業を積み重ねてきており、自習を支援するツールとして使用できないか、学校で検討中だという。

「大学進学率の高い高校では『来年に大学受験が行われるのか』と不安視する声もありますが、就職率の高い高校は『果たして求人票が出るのか』と心配しています。全国の高校が不安を抱えています。高校生の皆さんは自分を律し、自分を真っ直ぐに見つめ、日々を過ごしてほしいですね」(同・萩原校長)

 今の高校3年生は、大学入試改革に振り回されてきた経験を持つ。英語民間試験と記述式問題の導入が発表されながら、最後は見送られた。何ごとにも動じない精神力を持っていれば良いのだが……。

週刊新潮WEB取材班

2020年4月13日掲載

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