「コロナ第一号患者の感染源は日本人」 インドネシアが流したウソの裏に“反日・親中”

国際

  • ブックマーク

Advertisement

インドネシアが抱えるチャイナリスク

 日本を軽視し、中国との関係を深める近年のインドネシアだが、そこには「チャイナリスク」が潜んでもいる。先に触れたジャワ島の高速鉄道は、2019年開通の予定から延期に延期を重ね、いまでは2024年の開業が目標となっている。また完成した暁には、鉄道の運営は中国が行い、利益も中国が取るという契約を結ばされている。

 しかも、損失時にはインドネシアが補填する。もし負債を支払わなければ、高速鉄道そのものが中国政府の所有物になるというから、これぞ一帯一路の負債の罠である。実際にスリランカでは、中国への負債を払いきれず、国を代表する港湾「ハンバントタ港」が99年間、中国企業の手に渡った(港の管理会社の株式を譲渡したのだ)。そのシナリオと同じ、まさに一帯一路がする“詐欺行為”に酷似している。現在、その港には、中国国旗が掲げられ、インド洋海洋国家構想の要となる「軍事的要塞」に変貌している。

 コロナウイルスに関しても、中国との関係が深いだけに、インドネシアがこうむる「チャイナリスク」は大きいだろう。なにせ、インドネシアにおける感染拡大は深刻だ。3月27日現在で「感染者数893人、死者数87人」と死者数はアジアで中国、韓国に次ぎ多く、東南アジアでは最大。致死率では、イタリアとほぼ同じの、約10%となった。日によっては、致死率はイタリアを上回る。「致死率世界一」の国なのだ。

 チャイナマネーをあてにしているインドネシア政府は、近年、中国人へのビザ要件緩和など優遇措置を実施してきた。結果、インドネシアには中国人観光客が多く訪れ、その数は年間200万人にも上るという。代表的な観光地は、世界有数のリゾート地・バリ島だ。ヒンズー教徒が多いこの「神の島」の売りは風光明媚なビーチで、とくに武漢のある湖北省や四川省からの旅行客が多く訪れる。春節の休暇期間である昨年12月末から今年2月までの間には、武漢などからの中国人観光客、約5000人以上が島を訪れていた。

 そのさなかの2月5日、インドネシア政府は、新型コロナ拡大を受け、中国発着の定期航空便の全面乗入禁止と、中国人観光客と中国を過去14日間のあいだに訪問した外国人の入国制限に踏み切った。

 中国政府は、自国民を帰国させるチャーター便をバリ島に手配したが、帰国希望はわずか60人ほどだった。残りのほとんどは「帰国拒否」を貫き、バリ島に居座ることとなった。にもかかわらず、チャイナマネーを目論むインドネシア政府は「オーバーステイ (不法滞在)を認める」と言い出し、中国への忖度が見え見えの対応だった。

 帰国拒否を貫いたおよそ5000人には、まともに検診を受けさせることもなかった。のちにインドネシア政府は、同国初の新型肺炎の死亡者が“バリ島を渡航していた「外国人籍」の人物”だと発表している。地元メディアが「英国籍の女性」と正体を暴くわけだが、詳細を伏せた理由について政府は「プライバシー尊重のため」と釈明。実際は、英国との外交問題に発展するのを危惧したのだろう。「日本人が感染源」と発表したのとは、正反対の対応だ。

 結局、こうした反日かつ親中の姿勢が、大統領による“デマ”を招いた結果であったともいえるのではないか。もちろん、観光地が中国人客を拒否するなど、コロナをめぐる“嫌中”運動がインドネシアで起きてはいる。とはいえ国を挙げて日本人を「悪」とし、現地で暮らす日本人やその子供たちをハラスメントの被害者にした振る舞いとは、レベルが違う。反日を進めた一方で、中国と運命共同体を標ぼうするインドネシア。チャイナリスクの代償はあまりにも大きいと、そろそろ、自覚してもいいはずなのだが……。

末永恵(すえなが・めぐみ)
マレーシア在住ジャーナリスト。マレーシア外国特派員記者クラブに所属。米国留学(米政府奨学金取得)後、産経新聞社入社。東京本社外信部、経済部記者として経済産業省、外務省、農水省などの記者クラブなどに所属。その後、独立しフリージャーナリストに。取材活動のほか、大阪大学特任准教授、マラヤ大学客員教授も歴任。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年3月31日掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。