新型コロナの感染源は日本人――インドネシア政府がついた姑息過ぎるウソの顛末

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大統領がついていた“ウソ”

 日本では報道されていないが、インドネシア最大の英字紙「ジャカルタ・ポスト」は、3月13 日付オンライン記事で『“政府は国民をパニックに陥れたくなかったからだ”――ジョコウィ大統領 新型肺炎の情報隠蔽で弁明』と報じた。コロナに関する情報隠蔽を大統領が認めたという、衝撃的な内容だった。

 これはインドネシア国内の感染者急拡大を記者に問われ、大統領が明かしたもの。「これまで(3月12日まで)新型肺炎に関する明白な情報を、あえて、開示してこなかった」「それは国民をパニックにさせたくなかったからだ」と語ったという。英紙「テレグラフ」はこれを受け、「インドネシア大統領 新型肺炎情報で隠蔽認める」と大きく報じている。

 ジョコウィ大統領の驚くべき告白は、日本人から初の感染者が出たというのがフェイクニュースであるということを示唆している。実際には、以前から国内の感染者の存在を政府は認識しており、母娘は“初”でなかったと、暗に認めたことになるからだ。であれば、そもそも「日本人から感染した」と大々的に発表する必要もなかった話である。

 こうした姿勢の政府には、インドネシア国民だけではなく、国際社会からも疑いの目が向けられている。先般、WHO(国際保健機関)は「東南アジア諸国は新型肺炎への対策を積極的に早期に対応するよう」と懸念を表明した。名指しこそしていないものの、世界最大のイスラム教国家で世界4位の人口を抱えるインドネシアへの危惧である。

 なにせ、インドネシアにおける感染拡大は深刻だ。3月27日現在で「感染者数893人、死者数87人」と死者数はアジアで中国、韓国に次ぎ、東南アジアでは最大。致死率では、イタリアとほぼ同じの、約10%となった。日によっては、致死率はイタリアを上回る。「感染者ゼロ」の国から「致死率世界一」の国になったということだ。

 先週、インドネシア政府は「感染者数は60万から70万人にのぼる可能性がある」と発表しているが、これは楽観的すぎる見立てだ。国際的なシンクタンクなどは「2億6400万人の人口の半数に相当する人が感染している可能性がある」と警鐘を鳴らしている。ちなみに欧州の感染者数は10数万人だ。

 実はインドネシアでは、以前からデング熱が大流行していた。年始から3月10日までの間だけでも、全土で1万7781人が感染し、104人が死亡したという(保健省発表)。これについて、インドネシア赤十字総裁で元副大統領のユスフ・カラ氏は「新型肺炎をデング熱と診断してきたのでは」との危惧を語っている(米ニューヨークタイムズ紙)。同様の分析はハーバード大学などの国際的医療機関も行っているから、実際には、把握されている以上に、インドネシアでコロナウィルスがすでに蔓延している可能性がある。

 3月23日には、オーストラリアのABC国営放送が「インドネシア 新型コロナウイルスで致死率世界一 実態とかけ離れた感染者報告数」と報じ、「4月末までに感染は大拡大するだろう」という専門家の解説を紹介していた。インドネシアが「世界最大の感染国」になってしまう可能性は、非常に高いといえるのだ――。

末永恵(すえなが・めぐみ)
マレーシア在住ジャーナリスト。マレーシア外国特派員記者クラブに所属。米国留学(米政府奨学金取得)後、産経新聞社入社。東京本社外信部、経済部記者として経済産業省、外務省、農水省などの記者クラブなどに所属。その後、独立しフリージャーナリストに。取材活動のほか、大阪大学特任准教授、マラヤ大学客員教授も歴任。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年3月30日掲載

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