タワマン残酷物語 住民は“上京したプチ成功者”、階層ヒエラルキーで上階へ引っ越しも…

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階層ヒエラルキー

 4年ほど前のテレビドラマで「砂の塔」というのがあった。タワマンに住む幼稚園ママコミュニティが舞台で、高層階の住人が低層階ファミリーを露骨にマウンティングするシーンが大きな話題を呼んだ。いわゆるタワマンの“階層ヒエラルキー”を扱った作品だ。

 タワマンの住民の一部には、“階層ヒエラルキー”なんてありえないと主張する方もいる。買って住んでいる人からすれば、そういったものがあって、自分たちが見栄っ張りだと思われるのが我慢ならないのだろう。だが、存在するかしないかといわれれば、それは確実にある。

 私の知り合いに湾岸エリアで子ども向けの英会話教室を経営しているご夫妻がいて、当然のことながら、タワマン住民の方々ともお付き合いがある。その方に「タワマンで階層を気にする人って、本当にいるんですか」と尋ねてみたことがある。

 彼らの答えは「いっぱいいる。というよりも、ほとんどのお母さんがそのことを気にしている」というものだった。なかには、それでノイローゼになって引っ越した人もいるそうだ。そればかりか、最初は15階あたりに住んでいたものの、階層ヒエラルキーが気になって、24階、42階と上り詰めていった人までいたという。

 小さな子どもたちの間でも、「お前は18階だろ。俺んちは45階だ」と階層ヒエラルキーが発生したりすることもある。

 タワマンの住人というのは、とりわけ数字で分けられるヒエラルキーには敏感そうだから、それが自然と子どもの感覚に反映されるのかもしれない。

 外見は立派でも、中身は「超高層レオパレス」。15年ごとに大規模な修繕が必要で、住民たちは自らの“資産価値”に囚われ、“階層ヒエラルキー”なるものまで作り上げている。タワマンとは、実際、かなり歪(いびつ)な集合住宅ではないか。

 それでも都心の一等地なら、土地に限りがあるのでタワマンのような超高層集合住宅を作る必要もあるだろう。だが、わざわざだだっ広い湾岸の埋立地や、武蔵小杉のような郊外に作る必要はないはずだ。

 欧米人はタワマン的な住宅での子育てを好まない。「ふさわしくない」と考えているのだ。中学受験を専門にしているベテランの家庭教師は「タワマンの子は成績が伸びない」と断言している。外出が少ないタワマンの子どもは屋外の自然現象を肌感覚で理解できにくく、それが理科などの成績が伸びないことにつながっているのだという。また、高層建物の住人が急病などで救急搬送された場合、階数が高くなるほど生存率が低いという、カナダの研究機関の調査もある。あたり前だが、低層階よりも上下の移動時間がかかるからだろう。

 多くの人が憧れるタワマンという住形態は、見た目の立派さとは裏腹に多くの問題や矛盾を含んでいる。住み始めの数年間は、快適で楽しいだろう。豪華な共用施設が揃っているタワマンもある。

 しかし、そういった華やかさの向こうに何があるのかも、しっかりと知っておくべきではないだろうか。

榊淳司(さかきあつし)
不動産ジャーナリスト。1962年京都市生まれ。同志社大学法学部、慶應義塾大学文学部卒。1980年代後半から30年以上、マンションの広告、販売戦略に携わる。著書に『限界のタワーマンション』『マンション格差』など

週刊新潮 2020年3月19日号掲載

特別読物「実態は『超高層レオパレス』 資産下落と階層差別の『タワマン残酷物語』」より

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