多川俊映(興福寺寺務老院)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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興福寺の修行

佐藤 興福寺は檀家を持たず、葬式もされない。お坊さんはいわば学僧として、唯識を極めていくわけですが、いまもその門を叩いてくる人はいますよね。

多川 いますね。

佐藤 ちょっとこの人は向かないから考え直したほうがいい、ということもありますか。

多川 いや、入門したい人はみんな入れます。選り好みはしません。ただ途中で辞めたり、こちらからお引き取り願うことはあります。

佐藤 寺に入ると、どんな修行をするのですか。

多川 最初は「堂参(どうさん)」と言いまして、朝早く起きて、20ほどあるお堂を勤行(ごんぎょう)しながら回り、終われば掃除、掃除が終わればまた掃除です。非常に地味で楽しみもない。それを10年くらいさせて様子を見ます。

佐藤 10年もですか。

多川 初めは真面目でも、長くやっていれば、どこかでボロが出てくる。だから10年勤めあげれば、まあまあやれるかな、ということですね。

佐藤 その次はどういう段階になるのでしょう。

多川 「竪義(りゅうぎ)」という口頭試問を行います。昔のお坊さんは唯識の勉強を問答体で行っていました。それを追体験させます。その前に「前加行(ぜんけぎょう)」と呼ぶ準備の行をするのですが、半畳の部屋に籠り、座睡、2食、無言で、3週間勤めます。論義問答の本をひたすら読み、春日大社にお参りもする。神仏習合はここにも生きています。そして竪義の口頭試問に挑みます。これに受かると、一人前になったと認められる。その後は自分で唯識論とか倶舎(くしゃ)論などを勉強していくことになります。

佐藤 そうやって一人前になった僧侶はいま興福寺に何人いますか。

多川 7人です。昨年11月にドイツ出身、41歳のザイレ暁映が竪義を終えました。非常に真面目な子で、新聞などで少し話題になりましたね。

佐藤 米国カリフォルニア大学から日本に留学して、日本仏教思想史を研究していた方ですね。

多川 奈良で一番僧侶が多いのは東大寺で、それでも25人ほどです。だから奈良仏教は、層が薄いんですよ。

佐藤 入門されるのは、お寺の子弟ですか。

多川 そうじゃないですね。在家のほうが多い。そのほうがしがらみがなくていいのですよ。

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