【新型コロナ】五輪レスリング代表は国別枠が決まらない異常事態 10階級も未定

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選考の多くが国際試合

 基本的にレスリングの五輪の代表は前年の世界選手権、3月の大陸別予選、4月の世界最終予選を経て枠の獲得は決まる。ところが3月27日から中国・西安市で開かれるはずのアジア予選が新型コロナウイルス騒動で中止になった。代替地がキルギスのビシュケクに決まり、協会が準備をしていたらキルギス政府が海外からの感染を恐れて突然、大会自体の中止を決めてしまった。これでアジア予選は宙ぶらりんになってしまったのだ。

 例を見ない異常事態に関係者は気を揉む。女子はリオ五輪王者の川井梨紗子(57キロ)、友香子(62キロ)の姉妹、向田真優(53キロ)、皆川博恵(76キロ)の代表が決まっていたが日本伝統の最軽量の50キロ級が決まらない。リオ五輪王者の登坂絵莉や、入江ゆきとの激戦を制した須崎優衣も、アジア選手権で2位に入らなくては五輪には出られないのだ。須崎を指導する吉村祥子コーチは「出る権利は持ってるんだからね、と言い聞かせています。本人は動揺しているわけではなく準備は万端ですが、全く焦点が定まらずやりにくい。特に開催時期も不明で減量のタイミングなどが難しいんです。パンアメリカン予選を今週、オタワで開くようですから、公平性からも残る3大陸の各予選をやるのではないか。須崎選手には気持ちを太く持ってどんな事態も受け入れる心の準備はさせていますが、早く感染騒動が落ち着いて方針が定まってほしい」と話してくれた。

 男子は、全日本選手権で優勝したフリーの高谷惣亮(86キロ)、樋口黎(57キロ)などが「日本一」にはなっているがグレコ、フリー合わせて9階級が枠を取っていない。五輪代表が決まったのはグレコローマンの文田健一郎(60キロ)と乙黒兄弟だけだ。とはいえ、男子重量級は世界との力量差が大きく、出場枠を取れる可能性は薄い。スキンヘッドの人気者、全日本選手権6連覇の園田新(グレコ130キロ)も五輪経験はない。重量級の五輪メダリストはロス、ソウル五輪(1984年と1988年)銀メダルの太田章だけである。

 マラソンの代表選考は国内対応だけで済み、プレーオフのあった3月8日に男女とも代表すべてが決定した。柔道は幸いドイツのグランドスラム大会で代表内定がほぼ決まり、残るは4月4日からの全日本体重別選手権で、男子66キロ級「阿部一二三vs丸山城志郎」の大一番を残すだけになっている。「無観客試合」などにはなりそうだが、これは「国内対応」で済む。

 ところがレスリングは代表選考の多くを国際試合に残してしまっている。この危機的な状況自体はなぜかあまり報じられていない。日本レスリング協会の福田富昭会長は「キルギスは大会前に『入国した選手団を二週間隔離する』と通知してきたので『選手のコンディションが保てない』と抗議したら大会中止になった。その後、世界連合(UWW)は全く連絡してこないんです。(3月9日現在)。モンゴルやカザフスタン、或いはベトナムやタイあたりを検討しているのかもしれないがどこも難しいのでは。4月末のブルガリアでの世界最終予選を拡大してアジア予選も先にやってしまい、枠を取れなかった選手を世界最終予選で戦わせることにするかもしれない。非常事態ですからアジア予選の開催地がアジアである必要もないし」と話す。

 とはいえ、そのブルガリアも新型ウイルスの感染者が出た。欧州はイタリアを中心に拡大している。一体、五輪代表の決定はどうなるのだろう。レスリングだけではないだろうが。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

週刊新潮WEB取材班

2020年3月11日掲載

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