「世界一受けたい授業」で話題「わかり合えない人とどう付き合う?」 カラテカ矢部とブレイディみかこが語る

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階級が7つある…

ブレイディ 自分と全然違う相手とかかわって、その人のことを知ろうとするのはエンパシーの第一歩です。2冊目(『「大家さんと僕」と僕』)の最後の8コマを読んだとき、涙がダーって流れて。滂沱の涙。矢部さんはこれが言いたくて描かれたのかなって感じて、泣きました。

矢部 あれは番組で出されたお題だったんです。全部の話をまとめて1ページで、っていうめちゃくちゃな話で(笑)しかも描きたくないなぁ、という気分の時期でもあったので……ああ、描いてよかったです。3冊目は「恋愛漫画」だって言っていただくときもあるんですけど、これも僕はそう思って描いてはいなかったんです。男女だから恋愛の物語になるとか、そういうことでもないだろうって。エンパシー漫画でお願いします! ここまで話しておいて何なんですけど、今日、先生に聞きたいことをレジュメにしてきたんです。(と言って『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』とタブレット端末を取り出す)

ブレイディ だから! 先生はやめてください! うわ、本の付箋すごいですね! そのタブレットで漫画を描いているんですか?

矢部 ええ。

ブレイディ ちょっと触っていいですか?

矢部 は、はい……普通の売ってるやつですけど(笑)。

ブレイディ (カバーにすこし触って)すごーい!

矢部 ええと、どれから聞こうかな(笑)。まず、この本を読んで、自分が思っていたイギリスのイメージが完全に覆されました。ミドルクラスとかワーキングクラスとかいくつかの階級に分かれていて階級間でごちゃごちゃしているというイメージだったんですけど、もっと複雑で、ややこしくて。

ブレイディ BBCが8年前にやった調査で、今のイギリスには階級が7つあることになってるんです。でも、わたしの実感としてはそんなもんじゃない。労働者階級だけをみてもモリッシーがアイコンだった80年代よりもバラけて多様化していますよ。しかも、経済だけじゃなくて、人種とか、いろいろな要素が入ってきていますから。

矢部 だからエンパシーが必要なんですね。

ブレイディ そう! よくできました、なんて(笑)。

矢部 先生に褒められました(笑)。あと、ブレイディさん自身のこと、たとえば子どもの頃の話とかがちゃんと書いてあるのもフェアな感じがするんですよね。

ブレイディ うれしいです。わたしは54歳なんですけど、この年になったら自分の子ども時代とか、けっこう忘れているんですよ。でも、いま子どもが置かれている状況を見てフラッシュバックみたいに思い出すことがあるんです。

矢部 ところで、連載では毎回なるべく違うことを書こうとしているんですか。

ブレイディ 締切に追われて書いているだけです(笑)。でも、うちで起きていることを全部書いたら、連載の原稿枚数の10倍あっても足りないです。

矢部 その「完全版」も読みたいですけど(笑)。

ブレイディ いやいや、それはできないので、わたしが面白いと感じたことに絞って書いて。それを毎月繰り返しているだけだから、戦略とかそういうのはないんですよね。でも、人生と同じくそうやって行き当たりばったりに書いていく中で、第5章のエンパシーのくだりが出てきたんです。息子がホームレスの人から飴玉をもらった。これはどういうことだろうね、と息子と話したときにコツンときたというか、この連載で書いていくのはこれじゃないかと思いました。だから結果的にエンパシーについて書いている本になったんです。

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