阪神優勝へのキーマン 「近本光司」“2年目のジンクス”を考える

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 矢野燿大体制2年目を迎えている阪神。春季キャンプでは、新外国人のボーア、サンズ、ガンケルに注目が集まったが、その傍らで彼ら以上に順調な調整ぶりを見せて話題を振りまいたのが、指揮官と同じく2年目のシーズンとなる近本光司である。

 目に付いたのが、パンチ力だった。今年初の対外試合だった2月8日の中日戦(練習試合)で右中間を鋭く破るタイムリー三塁打を放つと、翌日の日本ハム戦(同)ではライトの芝生席へ“今季1号弾”。報道陣に対して「最近は力を入れないで軽く打っている」と新たな“脱力打法”への挑戦を明かすと、同18日の紅白戦では、西勇輝のストレートを再びライトへ放り込んで「うまく脱力で打てました」とコメントしていた。

 さらに同22日の中日戦(オープン戦)では、山井大介の内角高めの直球を振り抜いてライトスタンドへ。この時点での実戦8試合で22打数8安打、3本塁打。昨年の2月、3月の開幕前は実戦23試合で0本塁打だった点を考えると、その進化ぶりは明らかだろう。

「持っている能力に疑いの余地はない。身長171センチ、体重72キロとサイズには恵まれていないが、50メール5秒8の俊足を生かしたスピード感があふれるプレーを攻守において披露しています。2018年のドラフト会議で、藤原恭大(大阪桐蔭→ロッテ)、辰巳涼介(立命館大→楽天)の“外れの外れ1位”で指名された際には、阪神ファンから『くじ運、悪いなぁ……』というものから『誰やねん!』というものまで、高校時代に甲子園とは無縁だった近本の1位指名に対して、多くの疑問、さらには批判の声が上がっていました」(スポーツライター)

 しかし、近本は、その前評判の低さを自らの実力で覆し、開幕スタメンからヒットと盗塁を重ねて、最終的に計159安打を放つ。長嶋茂雄が持っていたセ・リーグの新人記録を61年ぶりに更新。さらに、36盗塁をマークして、赤星憲広(阪神)以来史上2人目のルーキーで盗塁王にもなった。1年目から9本塁打を放って、単なる俊足巧打の選手ではなく、さらに「上」の強打者となる予感を見せている。

 とはいえ、やはり気がかりなのが「2年目のジンクス」である。対戦相手からの警戒、研究、自身の気の緩み、疲労蓄積……。その理由は様々だが、これまで多くの選手たちが、その“壁”に苦しんでいる。

「同じ阪神の外野手でいえば、16年に入団した高山俊がプロ一年目で当時の球団新人最多安打を更新し、新人王を獲得したものの、翌年は不振に陥って夏場以降はスタメンから外れることも多くなり、規定打席にも届かなかった。実はこの年の高山は、シーズン開幕前のオープン戦で12球団トップの4本塁打を放って絶好調だったが、その期待に反して開幕後は攻守に精彩を欠いてしまった。この事実と過程は、近本に通じる部分もあり、気になるところですね」(阪神を取材する記者)

 また、近本と同じく俊足の中堅手として人気を集めた赤星もまた、二年目のジンクスに悩まされたひとりだ。ルーキーイヤーの01年は39盗塁を記録して盗塁王を獲得したほか、打率も3割ちかくをマークして新人王を獲得した。だが、2年目は盗塁王のタイトルこそ獲得したが、4月に自打球で右足脛骨を骨折、全治6週間という大怪我を負ったことで前半戦を棒に振るという苦しいシーズンを過ごしている。

「絶対、壁は来る」と語る近本に緩みは見えないが、怪我という予期せぬアクシデントに見舞われる可能性もある。しかし、前出のスポーツライターは「近本のパーソナルな部分にはジンクスを吹き飛ばせる要素が多くある」と指摘したうえで、こう続ける。

「まず、大学や社会人を経験してのプロ入りをしているので、一人の大人としての経験値が高い。また、プロ入り前に結婚して家庭を持つ身であり、昨年7月には第一子が誕生したことで責任感も強まっています。オフの自主トレでも専門家に個別指導を依頼するなど、新しいものへの探究心も強く、一本足打法からの力強いスイングで、当てに行くのではなくしっかりと引っ張れるので、対戦相手の投手が嫌がっている姿や声をよく聞きます。仮に一時的なスランプに陥っても、近本は兵庫県淡路市出身で、関西学院大、大阪ガスと関西育ち。甲子園での大阪弁のヤジにも動じることがないでしょう」

 確かに、近本は落ち着いているようだ。新型コロナウイルスの影響でオープン戦は無観客試合となっているが、近本は自身のツイッターでこの点について冷静に分析している。

<無観客の中で試合をして、僕は"音"が気になりました。スイング音、打球音、投手が踏み出すスパイクと土の音、空調の音、カメラのシャッター音、このいつも鳴っている音が、静寂の中でしか聞こえない。テレビを通して伝わるかわからないですけど、今しか聞こえない色んな音も楽しんで頂きたいですね>

<打球判断に役立つスイング音、打球音。投球ごとに違う踏み出し音。投手がモーションに入ったとき、静けさの先にある空調の機械音。古巣相手に投げる中田賢一さんへのシャッター音。今日は色んなことに気づかされました。シーズンでも役立てるようなことを、この期間で発見したい>(いずれも2月29日)

 冷静沈着といえる近本は「2年目のジンクス」を乗り越えられるのか。ひとつ言えることは、彼が今後、どのような野球人生を送るのかにおいて、非常に重要な2020年のシーズンになるということだ。

週刊新潮WEB取材班

2020年3月6日掲載

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