巨人「育成のモタ」がキャンプで大活躍 それでも“飼い殺し”になりかねない事情とは

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代打として評価をする声も……

 8年ぶりの日本一奪還を目指す巨人が天候に恵まれた宮崎・沖縄での春季キャンプを打ち上げ、昨季に続いて指揮を執る原辰徳監督が今キャンプのMVPに選んだのは、背番号014、育成契約2年目のイスラエル・モタだった。

 ドミニカ共和国出身の24歳。米マイナーで5年間プレーした後の2017年に巨人のトライアウトを受けて不合格となったが、諦めることなく1年間の浪人生活で体を鍛え直し、翌年に再受験して育成契約を勝ち取ったハングリー精神の塊だ。入団1年目の昨季も、ジャイアンツ球場での打撃練習でスコアボードを破壊する特大弾を放った規格外のパワーが評判となっていたが、迎えた2年目の今季は宮崎での1次キャンプから実戦の中で猛アピールをみせた。

 紅白戦、練習試合、オープン戦と快音を響かせ続け、2月22日の日本ハム戦では浦野博司の外角低めの変化球に体勢を崩されながらも「くらいついたよ!」と、かつての長嶋茂雄のようにヘルメットを飛ばしながらスタンドに放り込む“今季1号弾”を放つなど、実戦11試合で41打数14安打の打率.341、1本塁打、9打点。その数字だけでなく、陽気な性格で笑顔を振りまきながら、三塁まで激走してのヘッドスライディングを見せるなど全力プレーを継続し、首脳陣、チームメイト、そしてファンの心を1カ月の間に掴んで見せた。

 この新星のハッスルプレーを原監督も絶賛し、同28日に支配下登録が発表された。背番号は「014」から「44」に変更となる。このまま「年間30発に期待」、「巨人打線がパワーアップ」、「日本一への切り札」と景気の良い言葉を並べたいところだが、そう簡単に話が進むわけではないのだ。

 第一に外国人枠の問題がある。今季の巨人の助っ人は、昨季8勝を挙げたメルセデス、昨季途中加入で守護神を務めたデラロサに加え、推定年俸3億4000万円で入団して先発ローテ入りが確実のサンチェス 、最速167キロという剛速球が魅力のビエイラの4人の投手と、野手の目玉として新加入したメジャー通算1466試合出場のパーラがいる。一軍登録できる外国人枠は「4」で、育成契約のモタは彼ら5人の次の「6番手」からのスタート。試合に出場するための前提として、チーム内の助っ人たちとの競争に勝たなければならない。

 そして、その争いには、チーム事情も加味される。現在、チームの最優先課題は、山口俊が抜け、年間を通して信頼できる先発投手が菅野智之のみとなった先発ローテーションの整備であり、サンチェスとメルセデスはその課題改善への重要なピースになる。加えてリリーフ陣も中川皓太をセットアッパーにし、デラロサもしくはビエイラが守護神に座る形が理想だ。「パーラ の代わりにモタ」という選択肢もあるが、大金を叩いて獲得した選手を優先的に起用するのは“常”であり、メジャーでの実績も十分のパーラを押し退けるハードルは低くない。

 守備位置の問題もある。モタの本職は外野だが、巨人の一軍外野陣は「センター・丸佳浩」、「ライト・パーラ」が当確で、残りの「レフト」は亀井善行、陽岱鋼のベテランに重信慎之介、石川慎吾らの中堅、さらに山下航汰、村上海斗といった若手も控える激戦区。「ファーストも守れる」とのことで、こちらの方が難易度は低そうだが、そこも大城卓三、北村拓己、中島宏之、陽岱鋼と候補者は多くいる。チームが優勝するためには、外国人枠を「一塁ではなく投手で使う」という決断を原監督が下しても不思議ではない。そうなれば必然的に、モタは“飼い殺し”の状態となる。

 振り返れば昨季も、メルセデス、デラロサに加えて、マシソン、ヤングマン、クック、アメダスの投手陣に、ゲレーロ、ビヤヌエバ、マルティネスと外国人が供給過多となり、それが故にヤングマン、ゲレーロ、ビヤヌエバといった面々が一軍と二軍を行き来する中でコンディションとモチベーションの維持に苦しみ、実力を十分に発揮しきれないまま退団する結果となった。

 また、過去には「アジアの大砲」と呼ばれた呂明賜(ロ・メイシ)が9戦7発の衝撃デビューを飾りながらも、クロマティが怪我から復帰した翌年以降は、外国人枠(当時は2人、投手にはガリクソンがいた)の兼ね合いもあって出番が激減し、自らも調子を落として日本を去ったという例もある。今キャンプでは、ローテ候補のメルセデスが左肘の違和感で別メニュー調整となったが、シーズン開幕後も他の外国人が故障離脱するか、もしくは完全な期待外れにならない限り、モタの出番が増えることはないかもしれない。

 昨季のモタは、ファームで22試合に出場して打率.313(32打数10安打)、1本塁打、6打点という成績を残した。数字的にはまずまずだが、変化球への対応に苦しんで計12三振と課題も残している。今キャンプでは結果を残しているモタだが、対峙した投手たちはまだまだ調整段階である。今後、他球団から研究された時にどうなるか。キャンプからオープン戦の時期の活躍が、シーズン開幕後はアテにならないことは、これまで多くの外国人選手たちによって証明されている。24歳という年齢には伸びしろを残すが、同時に未知数な部分も多いのだ。

 もちろん、このままモタが期待以上の働きを続けて、日本一奪還への立役者になる可能性は大いにある。だがその一方で、“飼い殺し”となる可能性も同じぐらいある。かつて中日の二軍から近鉄にトレードされて大活躍したブライアントのような例もあるが、果たしてどうなるか。

 最も不運なことは、モタの“ジャパニーズ・ドリーム”が、巨人のチーム事情によって閉ざされてしまうこと。モタがアピールを続け、その屈託のない笑顔が弾けるほど、原監督のマネジメント力が問われることになる。

週刊新潮WEB取材班

2020年3月1日掲載

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