韓国で新型肺炎の患者が急増 保守派は「文在寅政権の無能、無策」と総攻撃

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習近平訪韓を守りたい

――なぜ、韓国政府は中国人全員の入国を拒否しないのでしょうか。

鈴置:日本がしないからです。湖北省からの外国人の入国禁止も、武漢への救援機派遣も、日本が実行するのを見てから韓国は実施する。

 日本よりも先に立って、中国の怒りを買うのが怖いのです。日本は浙江省にも枠を広げましたが、まだ、中国全土に広げていない。当然、韓国も全土には広げられないのです。

 なお、中国全土からの入国を禁止しているのは米国、シンガポール、豪州、ニュージーランド、フィリピン、台湾、ベトナム、モンゴル、ロシア、北朝鮮などです。

――日本より先に「中国全土からの入国禁止」を実行すれば、「日本よりも上」になれませんか?

鈴置:国内的には拍手喝采されるかもしれませんが、そんなことをしたら中国から激しくイジメられるのは確実です。文在寅政権は習近平主席の3月訪韓を強く希望しています。日本よりも「前」に出れば、少なくとも習近平訪韓はなくなるでしょう。

 日本とは異なり、韓国では保守も左派も皆、中国主席の訪韓は大歓迎。4月15日の総選挙を控え、文在寅政権にとっては数少ない票を稼げるチャンスであり、これを失うわけにはいかないのです。もちろん朝鮮日報もそれは分かっていて、あえて「政府は説明せよ」と迫っているのですが。

 野党第一党、未来統合党の黄教安(ファン・ギョアン)代表は2月19日、「中国全域に滞在した外国人の入国禁止」を政府に求めました。ここで一気に文在寅政権を揺すぶる作戦です。

 もし今後、韓国で感染者や死亡者が増え続ければ、文在寅政権は「国民よりも中国を大事にする」と強い非難にさらされるでしょう。

「肺炎で一気逆転」狙う保守

 保守が4月の総選挙で負ければ、検事や裁判官を集中的に捜査する左派政権の「ゲシュタポ機関」が誕生し、窮地に追い込まれるのは目に見えていました(「文在寅政権が韓国の三権分立を崩壊させた日 『高官不正捜査庁』はゲシュタポか」参照)。

 そして選挙法の改革により、保守は総選挙で惨敗するとの見通しが高まっていた(「独裁へ突き進む文在寅 青瓦台の不正を捜査中の検事を“大虐殺”」参照)。

 ところが思いがけない新型肺炎の流行。4月の総選挙で、保守が勝つ可能性が出てきました。文在寅政権が新型肺炎でハンドリングを誤れば、弾劾に追い込まれることもあり得ます。韓国はムードが支配する国です。国の進路は「気分」で決まるのです。

 新型肺炎が政権を揺らす、という構図は韓国だけではありません。「震源地」の中国の習近平政権こそが最大の窮地に立っています。

 中国共産党は「我々の苦境に付けこむ米国」を強調、愛国心の高揚で非難の矛先をそらす作戦です。しかし中国共産党の情報統制こそが、発表ベースで2233人もの死者を出す(2月21日段階)という惨事を引き起こした事実は隠しようがない。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権も新型肺炎の蔓延を防ぐために「鎖国」を実施しました。ただでさえ苦しい経済をさらに圧迫するのは間違いありません(「新型肺炎で中国、南北朝鮮が連鎖倒産に追い込まれる? 米国は“カメの論理”で舌なめずり」参照)。

東アジアの政治地図を塗り替える

 日本の安倍晋三政権も安泰ではありません。「肺炎」以前から、習近平主席の国賓訪問には、自身の支持層である保守から強い批判が出ていました。

 ウイグルや香港での人権弾圧の総元締めであり、日本の尖閣列島に触手を伸ばす中国共産党。そのトップの習近平主席と天皇陛下のツーショットが世界に流れれば、日本がそれらを認めたと世界に発信することになるからです。

 そこに新型肺炎。韓国での政権批判と同様に「習近平訪日を実現するために、中国全土からの訪問を拒否しないということか」「国民より中国が大事か」との安倍批判が日本でも語られ始めています。

 後世の歴史家は「新型肺炎が東アジアの政治地図をがらりと描き変えた」と書くことになるのかもしれません。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年2月21日掲載

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