「死刑反対は表明していません」フライング報道に全日本仏教会が断言

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 凶悪犯罪は命をもって償うべき――。多くの国民はこう考えているようだ。内閣府が1月17日に公表した世論調査で、死刑制度への支持率は80・8%に上った。そんななか、主要59宗派が加盟する全日本仏教会(全仏)が“不殺生の教えと矛盾する”とし、死刑反対を表明すると報じられたが……。

 全仏による死刑反対表明の記事は、地方紙を中心に1月30日の朝刊各紙に掲載された。記事の概要を紹介すると、

〈1月30日開催の全仏理事会で死刑反対の答申を了承し、当日、記者会見で明らかにする見通しで、組織全体として表明するのは初めて〉

 全仏は、都道府県仏教会など計106団体が加盟する公益財団法人。この一大勢力が死刑反対を表明すれば、制度存廃の議論に影響を与えるのは必至だ。が、

「死刑反対は、表明していません」

 こう断言するのは、全仏の広報担当者だ。

「あの記事を書いたのは共同通信の記者で、事実関係に間違いが多い。当日、理事会を開いたのは事実ですが、最初から死刑反対の表明を了承する予定もありませんでした。ですから、記者会見を開くはずがないのです」

 全仏の社会・人権審議会は昨年12月2日、理事長へ“死刑廃止”に関する答申書を提出していた。全仏の広報担当者が続けて、

「審議委員の任期は原則2年で、任期満了が今年3月末と退任が迫っている。これまで議論してきたものを、答申という形でまとめました。死刑廃止については、今後も議論を継続していく方針です」

 雑誌「宗教問題」の小川寛大編集長によれば、

「そもそも加盟宗派で、死刑反対の姿勢を明確にしているのは東本願寺を本山とする浄土真宗系の『真宗大谷派』だけ。戦後、真宗大谷派は人権問題に熱心に取り組んできました。一方、釜田隆文・全仏理事長の曹洞宗など宗派の多くが死刑廃止は“慎重に議論すべし”との考えが主流で、仏教界にも温度差があるのです」

 共同通信の記者も仏教会の事情を知らないはずはないが、最初の記事から十数時間後、何事もなかったかのように「仏教会、死刑制度の議論を継続」なる記事を配信した。これでは最初の記事が“フライング”と言われても仕方ないだろう。

 共同通信に聞くと、書面でこう答えた。

「取材を尽くして出稿したものです」(編集局)

 一連の記事によって改めて、仏教界にも“多様性”のあることが浮かび上がった形だ。

週刊新潮 2020年2月13日号掲載

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