新型コロナ拡大が“嫌中・反中”を増長 東南アジア5カ国それぞれの事情

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 新型コロナウイルスをめぐり、日本でも「中国人お断り」の張り紙を掲げた飲食店が問題視された。が、世界各地で「アンチ・チャイナ」の動きは確実に広まりつつあり、良くも悪くも中国との“関係”が深い東南アジアの国々は、特に激しいようだ。東南アジア情勢に詳しいジャーナリスト・末永恵氏がレポートする。

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 中国の新型コロナウイルスの世界的拡大によって、欧米諸国などで「反中・嫌中」の動きが拡散している。こうした反応は東南アジア諸国でも見られ、かねてより南シナ海をめぐる領有権争いや「一帯一路」による経済的覇権、ソフトパワーを使った共産党思想の伝播といった事象への反発があっただけに、“NO China, NO Chinese!”(中国や中国人は出ていけ!)の声は、むしろ欧米よりも大きいといえるかもしれない。

 2月12日現在で、東南アジア諸国の感染者は、シンガポール47人、タイ33人、マレーシア18人、ベトナム15人、フィリピン3人(うち1人死亡)、カンボジア1人、インドネシア0人となっている。このうち5カ国の新型コロナ問題への反応と、その背景にある対中関係の近況を見ていこう。

 まずはマレーシアとインドネシアである。前者は過半数をイスラム教徒が占め、後者は世界最大のイスラム国家。そんな2国をはじめとする東南アジアのムスリムたちから聞こえてくるのは、「コロナウイルスはアラーが下した中国への処罰、報復だ!」との声だ。

 背景には、中国政府による新疆ウイグル自治区、ならびに世界に散らばるウイグル人イスラム教徒への迫害問題がある。

 この問題をめぐっては、つい昨年末にも、英国サッカーのプレミアリーグ・アーセナル所属のスター選手で、イスラム世界の英雄・トルコ系ドイツ人教徒のメスト・エジル選手が、「コーランは焼かれ、モスクは閉鎖され、イスラム神学校は禁止され、イスラム学者が次々に殺されている」「なのにどうして、イスラム教徒は沈黙しているのか」と中国を痛烈に批判し、世界のムスリムの兄弟達に中国を非難するよう訴えた。さらに、日本でも人気のラグビー・ニュージーランド代表、ソニー・ビル・ウィリアムズ選手も、「人間性でなく経済利益を優先させた」とチャイナマネーを振りかざし、イスラム教徒の人権侵害を繰り返す中国を批判してもいる。

 エジル選手に対して中国政府は、「事実でないメディアの報道を信じているだけ」と一蹴。のみならず、中国中央テレビ(CCTV)はプレミアリーグのアーセナル対マンチェスター・シティー戦の放送を中止し、別の試合に差替えるという“報復”に出た。

 それだけに、新型ウイルスが出現したことは、中国に対する「報復の報復」だと見られているわけだ。

 マレーシアでは18年、マハティール首相が中国政府の送還要求を拒否し、11人のウイグル人を開放したこともあった。もちろん、先に触れたとおり、感染者が出てはいるから、“無傷”の報復ではない。

 経済面でも同様で、前ナジブ政権の腐敗政治により1兆リンギ(約27兆円)の負債を抱えるマレーシアは、日本の低率融資のサムライローンなどを基盤に財政立て直しを進めている最中。その施策として今年は「Visit Malaysia」の観光キャンペーンを展開し、最大貿易相手国の中国をパートナーに、2国間の観光交流事業を立ち上げたばかりだった。コロナウイルスにより、チャイナマネー獲得を目論んだ出鼻はくじかれた形だ。

 そして、現マハティール政権も対中経済の影響を鑑みて、強い入国禁止措置をとれないでいる。武漢のある湖北省など、中国政府が指定する一部都市からの入国は禁じているものの、シンガポールやフィリピンのように中国全土あるいは広い範囲からの中国人をシャットアウト(入国禁止)しておらず、国民は不満を募らせている。“家族と子供たちを守るため”と、中国人観光客の入国禁止を求める署名活動も起きていて、その数は50万人近くにものぼる。多くのマレーシア国民が「中国人お断り」を求め、マハティール首相に判断を迫っている状況なのだ。

 抗議という点では、インドネシアでは、人気の観光地・ブキティンギで、約500人の地元住民が、反・中国人観光客の運動を展開した。フランス資本のグローバルホテルブランド「ノボテル・ホテル」前に「インドネシアは中国人観光客を拒否する」と書いた垂れ幕を掲げ、同ホテルに泊まる約200人の中国人宿泊客に、即座にインドネシアから退去するよう強く迫った。西スマトラの観光地・パダンでも、やはり「中国人観光客はいらない!」と横断幕を振りかざし、中国人の退去を求めるデモが起きている。

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