新型コロナ拡大が“嫌中・反中”を増長 東南アジア5カ国それぞれの事情

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ベトナムは「あなたの国は、世界中に病気を拡散させている」

 つづいて紹介するのは、中国が南シナ海上に主張する領有境界線「九段線」を巡り、対立してきたベトナムとフィリピンのケースだ。

 南シナ海をめぐっては、中国批判の急先鋒に立つベトナム。18年には南シナ海で自国の漁船が中国船2隻から攻撃を受けて沈没させられただけに、報復も止さずと、強硬な対抗姿勢を示してきた。さらにここにきて、「ソフトパワー」による中国共産党の共産主義や覇権主義の拡大に反発する動きを見せている。

 たとえば昨年10月には、米中合作のアニメ映画『アボミナブル』がその俎上にあげられた。本作品は、米映画制作大手ドリームワークスと中国のパール・スタジオが共同制作した子供向けアニメで、10代の中国人少女がヒマラヤの伝説の雪男イエティの帰郷を手助けするというストーリー。問題視されたのは、少女が中国の地図を広げるシーンだった。そこには中国南岸を起点に南シナ海全域を包囲するU字形の破線――九段線――が描写されていたのだ。

 この描写を受け、中国と領有権を争う東南アジア諸国で相次ぎ公開中止とされたが、なかでも早々に上映を禁じたのがベトナムだった。

 米ハリウッド映画界は、王健林が率いる中国最大財閥の不動産コングロマリット「大連万達グループ」が映画館大手チェーンや映画製作会社を買収するなど、チャイナマネーが流入している。中国政府の意向や趣向に沿った映画作りや俳優が登用されるといった事態が、国際社会から憂慮され始めている矢先の事件だった。

 ベトナムは『アボミナブル』の時同様、新型コロナでも中国便の運航中止やビザ発給停止などの「中国拒否」の水際対策を早々に進めた。加えて民間レベルでは「中国人お断り」の看板などを出す中国人観光客を締め出すレストラン、ホテル、商業施設が相次いでいる。

 なかでも露骨だったのは、世界的に著名な高級リゾート地・ダナンだった。同地では中国人に向けた「あなたの国は、世界中に病気を拡散させている。我々はあなたがたをゲストとして迎えることを拒否する」といった内容のメッセージを、公式サイトで堂々と公開するホテルが現れてきている。

 フィリピンもまた、今回の新型ウイルス水際対策を早々に行った国のひとつ。観光地・ボラカイ島を訪れていた武漢からの観光客約500人をチャーター機で中国に強制送還し、中国・湖北省と中国政府が流行を確認した地域からのフィリピンへの入国も禁止した。

 検察官出身で卓越した外交術を誇示するフィリピンのドゥテルテ大統領は、「嫌米」として知られるが「親中」ではない。たしかに、アキノ前大統領時代に冷え切った比中関係の改善のため、18年11月に、胡錦濤氏以来13年ぶりとなる習近平・国家主席を国賓で招待してもいる。が、これはあくまで経済投資をにらんでのこと。実際、この時には南シナ海での天然ガスと石油を共同で資源探査する覚書を交わしてもいる。昨年4月に、南沙諸島にあるフィリピンが実効支配するパグアサ島(フィリピン名、英語名はティトゥ)周辺海域で、同年1~3月の間に中国の艦船275隻が航行していたことが明らかになった際には、「中国への爆撃も辞さない」とドゥテルテ大統領は中国を強く非難している。

 だから実際のところ、フィリピン国民の大半は「親米嫌中」なのだ。習国家主席の国賓訪問のときも、在マニラの中国大使館に1000人近いフィリピン国民が集い、「南シナ海から出ていけ!」と訴えたほど。

 今回の新型ウイルスでは東南アジア諸国初の死者が出てしまい、元警官で地方都市市長のアブネル・アフアン氏が、マニラのフィリピン記者クラブの前で、中国国旗を燃やした。中国の責任追及を主張するわけだが、国旗を燃やすのは、最上級の抗議の形。マニラやマカティの商業施設で、中国人入店拒否の動きが出ているのは、言わずもがなである。

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