【ロシア産業スパイ】ソフトバンク事件は氷山の一角、北方領土問題の解決は絶望的

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政治的配慮

 事態を把握し、昨年12月に荒木を解雇したソフトバンクは、“持ち出された文書は機密性が低い”と強調する談話を出している。

 しかし、とテロ対策に詳しい公共政策調査会の板橋功研究センター長が語る。

「機密性が低いとはいえ、ソフトバンクにとっては企業秘密でお金を注ぎこんできた資産です。いまのIT社会では“通信を制する者は世界を制す”と言われています。ロシアにとってはなんらかの技術の開発スピードを速め、世界情勢で優位に立つうえで価値ある情報だったかもしれません」

 ロシアや中国のスパイは、“真空掃除機(バキューム)方式”と呼ばれ、何でも情報を集める。玉石混淆のなかから重要な情報を探し当てるのだ。他方で、警察庁関係者はこんな見方をする。

「北方領土で2島返還の交渉すら暗礁に乗り上げている微妙な時期に、安倍官邸が摘発を許可したことに驚きました。スパイ天国の日本にロシア人スパイがいることは周知の事実で、今回の件が氷山の一角なのは把握している。これまでは日露の外交関係が悪化しないよう政治的配慮が働き、よほどでないと立件しませんでした。官邸のゴーサインはロシア指導部の体制刷新と無関係ではありません」

 最近、プーチンは内閣を総辞職させて新首相を選んだ。自身は大統領任期の2024年で辞め、権限を強大にした上で議会の議長などに就く見通しとされる。

「北方領土交渉は、安倍総理がプーチンを“ウラジーミル”と親しげに呼べる関係が前提でした。しかしいまは、大統領を辞す予定のプーチンが内政を重視し、今後の交渉を担当するかも不透明な状態となっています。逆に言えば、そんな時期だからこそ、立件できた側面があるのです」

 北方領土問題の解決が絶望的に遠のいている事実が垣間見える事件だった。

週刊新潮 2020年2月6日号掲載

ワイド特集「麒麟便り」より

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