理美容業界が新たな市場として狙う「LGBT層」 商品や売り場を工夫する各社の戦略

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誰もが買いやすくをキーワードに変化する売り場

 LGBT層へのアプローチは、「製品」そのものだけではなく、「売り場」や「イメージの改革」も重要で、それが新たな市場活性化策につながる可能性を秘めている。店頭は消費者に最も近いコミュニケーションの場だが、例えばショッピング施設であれば、レディースフロア、メンズフロアのように階層を完全に分断しているのが現状だ。だが、カミングアウトを避けたいLGBT層からすれば、こうした売り場の“わかりやすさ”は大きな障壁になる。

 美容意識の高いゲイの消費者にアプローチするために、従来のコスメ売り場にメンズコスメのコーナーを新設すればいい、という話でもない。確かに男性客は入りやすくなるが、「本来、コスメやメイクは女性のものだ」という既成概念からは抜け出しきれないからだ。

 ジェンダーフリーを意識した店頭に、化粧人口の拡大を促す可能性があることはいうまでもない。新たな試みはすでに行われていて、2019年4月に東京・竹下通りの入り口にオープンしたスギ薬局原宿店で、同社初の男性のビューティアドバイザーが接客にあたっているのは、その一例である。自身もきれいにメイクアップし丁寧にカウンセリングを行う姿は、性別を問わず美を求めるお客を広く受け入れることを明らかにし、誰もが足を踏み入れやすい雰囲気を作り出している。

 また昨年11月には、マツモトキヨシも池袋のサンシャイン通り沿いの池袋Part2店を、ヘルス&ビューティケアを強化した都市型店としてリニューアル。地下1階に新たに独立した空間として男性用化粧品専用コーナーを設け、ヘアケア、スキンケア、さらにはBBクリームなどのメイク品を取りそろえた。また、2階のメイクサービスのコーナーでは、対象を女性に限定しないメイクサービスを実施。こちらは改装前から実施していたが、「眉を整えたい、にきびを目立たなくしたいなど、毎日のように男性の利用がある」(店舗スタッフ)という人気ぶり。ヘルス&ビューティを強化した店舗としてリニューアルしたことで、さらに利用者は増加しそうだ。メンズコスメ売り場をつくるだけに留まらず、このような性別の垣根を超えたサービスを広げて行くことで、ドラッグストアは店頭から消費者の意識をも変えることができるというわけだ。

 また、ドン・キホーテの美容関連の売り場は、以前から男性客が多い傾向がある。その理由をLGBT当事者に聞いてみると「売り場が雑然としているから、周りの目を気にしないで買える」や「他の人がどんな買い物をしているのか誰も気にしていない雰囲気がいい」と言った声が上がった。ある意味、前出のスギ薬局やマツモトキヨシとは反対とも言える店作りだが、結果として「すべての人が買い物を楽しめる」という同様の売り場作りの効用が見て取れることは非常に興味深い。

 同性愛者・両性愛者の男性が非LGBTの男性よりも基礎化粧品使用率が高いのは先に述べた通りだ。一方、同性愛者・両性愛者の女性は異性愛者の女性よりもむしろ使用率が低いという調査結果もある。さまざまな理由があるにせよ、関係者は「同性愛・両性愛者の女性の中には中性的な人物像を求める人が多いのが一つの理由ではないか」と推測する。つまり、しっかりとしたスキンケアに取り組む姿は“女性的”だというイメージから、生活に取り入れにくいものになってしまうのではないかという指摘だ。化粧品とLGBT消費者の関係でいえば、今後の市場はこうした層を開拓する必要があるのではないか。

 健やかで美しくありたいと願う気持ちに性差はないはずである。これまで化粧品メーカーや販売店が築き上げてきたコスメへのイメージが、LGBT層の購入と使用へのハードルとなっているのであれば、じつにもったいない機会損失だと言えよう。昨今、成長が著しい市場として注目を集める“メンズコスメ”の伸長を推し進める上でも、性差を超えた取組みとジェンダーと結びついたイメージからの脱却は非常に重要だ。そしてLGBTは、もはやCSR(企業の社会的責任)活動の一環やダイバーシティへの取り組みの一つとして語られるだけのトピックではない。こうしたマイノリティへの理解を通して、自身の原体験や既成概念を超えた領域に視野を広げることで、さまざまな市場の可能性と改革の機会を見出すことができるのではないだろうか。

週刊新潮WEB取材班

2020年2月4日掲載

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