理美容業界が新たな市場として狙う「LGBT層」 商品や売り場を工夫する各社の戦略

ビジネス 企業・業界 2020年2月4日掲載

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 近年、理美容業界では、LGBTの消費者に向けた取り組みが世界的に行われている。もちろん日本でも例外ではない。だが、単に商品を“LGBT向け”として開発・販売すればいいかといえば、そうではない。化粧品・日用品の専門誌『国際商業』(https://kokusaishogyo-online.jp)が、日本企業の取り組みについて解説する。

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 LGBTとは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイ(両性愛者)、トランスジェンダー(性別越境者・出生時に割り当てられた性別と自認する性別が異なっている人)の頭文字をとった言葉で、シスジェンダー(割り当てられた性別と自認する性別に違和感がない人)かつ異性愛者以外の人、いわゆるセクシュアル・マイノリティ全体を指す総称として使用されている。

 この言葉の認知率は、急速に高まっており、2018年の電通ダイバーシティ・ラボの調査によれば、LGBTという言葉の認知率は68・5%にまで上昇。また、自身がLGBTであると認識している人の割合は同調査で8・9%。また、LGBT総合研究所の19年調査によれば実に10・0%にのぼり、左利きの人や血液型がAB型の人と同程度の比率であることが分かっている。

 LGBTとはそもそも総称であり、また一つのカテゴリーに括られる中にも当然多様な考え、スタンスを持つ人がいるため一言で“LGBTの層”として表現することは適当ではない。しかし、それを踏まえたうえで、ここではあえて、さまざまな調査結果を通して見えた、いくつかの特長や消費傾向について触れたいと思う。

 まずLGBT層は、非LGBT層と比べ、匿名性の高いインターネット上でのコミュニケーションが活発である。そして出産、結婚、育児という考えを持つことが少ないことから、自身の生活や自己投資に積極的であることなどの特徴が挙げられる。また、情報感度が高く、新製品は積極的に試すなど新しいものへの関心も高い。

 LGBT総合研究所による意識調査によれば、「新製品はすぐに試してみる方だ」という質問に対して、「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた人の比率は、非LGBT層に比べて4.9ポイントも高く、「新しく見聞きしたことをよく話題にする」についても同程度高い。さらに情報発信する意欲も高いため、インフルエンサーとして活躍する人も多い。また、同調査によれば、同性愛者・両性愛者の男性は異性愛者の男性に比べ基礎化粧品の使用率が高く、美容への関心も高い。

 こうしたLGBT層の特徴を考えると、化粧品業界にとって魅力的な消費者であり、大きな市場として期待できる。しかし、LGBT層をコアターゲットにしてアプローチするには、当事者に対する正しい理解と工夫が必要だ。

 例えば、LGBTの当事者に「LGBT向けに開発された商品があれば買いたいか」と問えば「絶対に買わない」と口をそろえる。理由は単純で、もしそのような広告を打っている商品を持っていれば、それ自体がカミングアウト(自身のセクシュアリティを明らかにすること)になるからだ。LGBTの半数以上は、たとえ今よりも偏見や差別が少ない社会になったとしても、カミングアウトは望まない。だからこそ、企業側は、そうした安易なコミュニケーションや発信は避けるべきなのだ。

 本当に求められるのは、LGBT層にのみ焦点を当てた商品ではなく、そうしたマイノリティを含む多くの人が買いたいと思える商品とそれを売るためのコミュニケーションではないだろうか。その先駆けとして成功を収めた例が、2016年にパナソニックメンズグルーミングが発売した男性用体毛処理のグルーミングシリーズだ。

 特徴は“Oゾーン”にもアプローチしやすいV字ヘッドを採用した点。これは商品開発のためのグループインタビューで出た「一般的なT字型では体毛処理の際に臀部や脇下などのすき間まで届かず剃りにくい」というゲイの方の意見に基づくもので、当事者ならではの高い美容意識が、マス向けの商品作りに大いに貢献した。その後の販促活動でも、スタイリッシュな広告、パッケージなど、その多様な感性を生かしたクリエイティブを開発。結果LGBT当事者だけでなく、多くの男性の支持を得た。LGBT層をターゲットにするだけに留まらず、より洗練されたセンスを持つ人たちとして、その感性をマスマーケティングに生かした好事例で、多様化が進む社会において、学ぶことの多かった取り組みだと言える。

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