芸歴50年「桂文珍」が笑いに変える「吉本騒動」

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前に落とす奴が…

 1969年10月に当時の三代目桂小文枝に入門した。

「50年もおるとね、この会社のほとんどの社員さん、社長・会長も含めて年下なんですよ。大崎君(洋・会長)と呼んでいたのが大崎さんになっちゃって。いつ呼び方を変えるかは難しいですよね」

 大学での講義に情報番組のMC。抱えるレギュラー番組は20本近くにも。落語家として他のエリアに打って出るという意味でも、文珍はバリアフリーだった。

「いつも仕事に追われ、次のネタを……というような、あっという間の50年でした。色々しましたね。あんまり後ろ振り向いても恥ずかしいことで、“青春とはある時期のことを言うんやなくて心のありようや”と言うた人がいますが、まさに落語というものに青春してるって感じです。朝は5時半に起床。噺家はそんな時間に起きるもんやないと言われてきたんですがね。体を動かして、整えてから家内に出会う。寝起きを襲われるのはヤバいですから(笑)。朝ごはんを食べ、昼間は劇場に出かけます。ベースはなんばグランド花月です。あそこにはアウェーの感じがあって、つまり、“漫才と新喜劇の中になんで落語がおんねん”という空気です」

 とはいえ、

「この歳になりますとお客様が待ってくださっている感じもありますね」

 夜は自然と早く眠くなる。

「昔は何時まででもダラダラ飲んでたんです。終電だったり、もう電車なかったりとか。車両の中見渡すと、俺が一番年寄りやなぁってことがあって、それはショックやなぁということがあります」

 電車?

「乗りますよ。それでねぇ、ウチの弟子なんかと一緒に行動するんですけど、小汚い恰好してるんですよね、ジーパンの破れたやつ穿いていて。その日はハロウィンで、頭にナイフ刺したように見える恰好だったり、血の滴ったゾンビメイクしたお嬢さんたちも乗っていて、“オジサンたちもハロウィンですか?”って聞かれて、お互いに見つめ合ったら、あぁそう見えるわなぁと」

 弟子は4人。芸もさることながら社会のルールについても指導を“徹底”しているようで、

「“お前ちゃんと税金を申告してるかい? ちょっと売れたからって得意(徳井)になってないかい?”と聞くと、“いや、ちゃんと申告してますよ。しないとアレが返ってこないんです”“何がや?”“ほれ、かぼちゃ、パンプキン、いやいやカンプキン、還付金が”“お前ね、そんな面白いことをどうして落語に入れられないの?”って遊んでます(笑)」

 その弟子はなかなか売れなくて困っているようで、

「こないだも携帯止められてね。電話かけたら“お客様の都合で~”となる。“お前ね、お客様の都合で~って言ってたよ”“それが腹立つんですよ”“何がや、お前が金を払わへんからやないか”“違う、私の都合じゃないんですよ。あれは電話会社の都合で止めてるんですわ”と。“なるほどなぁ~そういう考え方もあるわなぁ”。そういったやりとりを噺の中に放り込むとおもろなりますわね」

 あたかも高座を見ているようにトークは転がり、

「19年といえばラグビー日本代表。あの、あんまり笑わない、稲垣(啓太)さんですよね、あの人笑わしたいなぁと思てるんです。ラグビーはボールを前に落としたらダメなんでしょ? 落語家でも慌てるとオチの前に自分で噛んだりします。ウチの弟子見てたら、前に(ボールを)落とす奴がいっぱいおってね」

次ページ:“ほんの5時間半ほど”

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