数をかぞえられない学生たち ありもしない「公式」に頼り…算数教育の珍現象

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「素朴にかぞえること」を学んでほしい

 経済産業省が来たるAI時代を視野に置いて、昨年発表したレポート「数理資本主義の時代~数学パワーが世界を変える」の中で、「第四次産業革命を主導し、さらにその限界すら超えて先へと進むために、どうしても欠かすことのできない科学が、三つある。それは、第一に数学、第二に数学、そして第三に数学である!」、と謳っている。そして、離散数学は「代数学」と「情報科学」にまたがる分野として大きく図示されている。

 筆者は大学で、リベラルアーツの基礎になる数学、教職課程の数学科教育法、そして離散数学などの講義を担当しているが、毎年、何人もの学生から「微分積分の延長にある多くの数学科目は苦手であったが、離散数学は新鮮な気持ちで学ぶことができた」という内容のコメントを多くいただく。

 以上から、子ども達の学びにおいては、かぞえることに関する公式を学ぶ前に、「素朴にかぞえること」をしっかり学んでほしいのである。

 最後に、昨年末に発表されたPISA調査(OECD生徒の学習到達度調査)において、「日本の15歳の生徒は読解力が大幅に低下した」ことが問題としてマスコミは大きく取り上げた。実は、学習到達度に対し大きく足を引っ張ったのは(科学的文献に対する)「自由記述問題」である。これは自分の考えを、根拠を示して説明できるかどうかを問う問題であり、筆者自身も日頃から積極的に学生に課している。そのような経験からも言えることは、「自由記述問題」が得意な生徒と、「かぞえること」が得意な生徒は大概一致しているのではないか、ということである。

 どちらも自分の頭で一から組み立てることが要点であり、さらにどちらも原理、法則、定理、公式などの知識はほとんど不要である。一方、それらの知識が必要な多肢選択問題では、日本の生徒はPISA調査で良い点数をとっている。

 受験シーズンを前にして、「かぞえること」に関心をもっていただければ幸いである。

芳沢光雄(よしざわ・みつお)
1953年東京生まれ。東京理科大学理学部(理学研究科)教授を経て、現在、桜美林大学リベラルアーツ学群教授(同志社大学理工学部数理システム学科講師)。理学博士。専門は数学・数学教育。近著に『離散数学入門~整数の誕生から「無限」まで』(講談社ブルーバックス)、『「%」が分からない大学生~日本の数学教育の致命的欠陥』(光文社新書)、『AI時代を切りひらく算数~「理解」と「応用」を大切にする6年間の学び』(日本評論社)など他多数。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年1月16日掲載

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