「威張らない人が心をつかむ」 梅宮辰夫さんと田中角栄の共通点
梅宮さんは「俺が死んでも続けてくれ」とロバート秋山を応援
俳優の梅宮辰夫さんの死去を受けて、その人柄を讃えるコメントや記事が絶えない。近年で有名なのは、「体ものまね」で梅宮さんの真似をしていた芸人、ロバート秋山とのエピソードだろう。本人には許可を得ずに始めたものまねについて、梅宮さんは秋山に「やるんだったら、中途半端じゃなく、突きつめろよ」と言って、快く「事後承諾」をしたという。
ものまねをするのには相手の了解が必要なわけではない。とはいえ、体つきをまねるという独特の表現方法ゆえに、笑いものにしていると怒られる可能性もあっただろう。なんといっても長いキャリアを誇る大物俳優なのだ。
しかし、梅宮さんは秋山を応援し、「俺が死んでもものまねをしてくれ」とまで言っていたという。
このエピソードがなぜ感動的に語られるのか。それは上下関係を振りかざさず、それどころか目下の者の背中を押すような言葉をかけていた梅宮さんの姿勢が見えるからだ。それゆえに、秋山のみならず多くの人の胸を打つのだろう。
『ザ・殺し文句』の著書がある川上徹也さんは、こう解説する。
「梅宮さんは、秋山さんに対して怒らないまでも『許可してやるよ』といった態度をとることもできたでしょうが、最終的には感謝するくらいの姿勢を示していました。
本来ならば上に立つ人が、威張らず、むしろ下手に出ると、相手は感動するのです。
芸人に関連したエピソードでは、ビートたけしさんが、後輩に奢ったあとで『売れたら(おいらを)使ってくれよな』と言った、という話も語り継がれていますが、これもよく似ていますね。言われたほうが『あんなに偉い人が自分ごときに丁寧に対応してくれた』ということでシビれるのです。
交渉の場面においても、高飛車に出ることが効果的だとは限りません。むしろあえて上位の者が下手に出たほうがいいことも多いのです」
川上さんが同書で挙げた有効な「殺し文句」の条件の一つがこの「下手に出る」だ。
「そのやり方を上手に使ったのが、田中角栄です。自民党の政調会長時代、日本医師会と対立していたことがありました。この時、田中は相手の会長に対して、『わたしら素人で、医療のことはよくわかりません』と切り出しさらに『こうして白紙を持ってきた。どうか思うとおりの要求をここに書き込んでくださいよ。ただし、政治家にもわかるように書いてくださいね』と続けました。
政権与党の政調会長に下手に出られたので、かえって交渉相手の医師会会長は無茶を言いづらくなってしまったのです。
また、大臣になってからも部下である官僚たちにことさらに威張るようなことはしませんでした。事前に顔と名前を覚えたうえで、20名の新人の名前を間違えずに呼び、さらに『諸君の上司には、馬鹿がいるかもしれん。諸君の素晴らしいアイデアが理解されないこともあるだろう。そんな時は俺が聞いてやる。迷うことなく大臣室を訪れよ』と語りかけました。こういう気づかいと殺し文句で部下の心を一瞬でつかんだのです」
もちろん、計算が透けて見えては、他人の心をつかむことはできないだろう。「実るほど頭の下がる稲穂かな」を普段から実践してこそ効果があるというもの。無駄に威張らないに越したことはないのだ。