トランプにも刺さったか 孫正義の伝説的「殺し文句」

社会 2017年1月25日掲載

 世界各国がその言動に戦々恐々とする中、ついに大統領に就任したドナルド・トランプ。
 そのトランプ大統領がまだトランプ「氏」だった時に、素早く会いに行った日本人が、安倍晋三首相と孫正義・ソフトバンクグループ社長である。

 首相はともかくとして、ビジネスマンの孫社長の行動力、突破力には多くの人が驚かされたことだろう。もっとも、氏の過去の武勇伝を知る人からすれば、そう意外なことでもなかったのかもしれない。

 古今の有名人の「殺し文句」をコピーライターの川上徹也氏が分析した本、『ザ・殺し文句』には、孫社長に関する2つの有名なエピソードが紹介されている(以下は同書の要約)。

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「ガソリンかぶって火をつけて死にます」

 2001年当時、先進国で世界一遅い、世界一高いことで有名だった日本のインターネット界に殴り込みをかけたのが、孫氏だった。孫氏はもてる資源をすべてブロードバンドに注ぎ込む決断をする。

 しかし、そこには通信業界の巨人NTTという大きな壁があった。

 NTTの妨害で、自社の工事がうまく進まないと考えた孫氏は、総務省に乗り込む。そこでいかにNTTに妨害されているかを熱弁するが、官僚にはのれんに腕押し。話は聞くが具体的な行動は起こしてくれない。

 そこで孫氏は、担当課長に以下の「殺し文句」を発動した。

「100円ライターぐらい持っとるでしょ、それ借りますから」

 どういう意味かといぶかる役人に、さらに孫氏はこう続けたという。

「ガソリンかぶるんですよ。この状況が続くなら、僕にとっては事業が終わりだから、もうヤフーBBやめると記者会見する。その帰りにここへ戻ってきて、ガソリンかぶって火をつけて死にます」

 この本気度に震え上がった担当課長は「何をすればいいんですか?」と言わざるをえなかったのである。

「殺し文句」が未来を切り拓いた

 孫氏が「殺し文句」で人を動かした例は他にもある。

 まだ16歳の時、日本マクドナルド創業者の藤田田社長の著書に感動した時のエピソードだ。

 孫少年は、藤田社長の秘書に何度も「社長にお会いしたい」と電話したが、相手にしてもらえなかった。

 そこで孫は、アポイントなしで福岡から東京に飛び、そこから秘書に電話して「今から自分の言うことをメモ用紙に筆記し藤田さんに渡してください」と言った。その内容は以下のようなものだった。

「私は藤田さんの本を読んで感激しました。是非、一度お目にかかりたい。しかし藤田さんがお忙しいことは重々承知しています。顔を見るだけでいいんです。3分間、社長室の中に入れてくれればそれで良い。私はそばに立って藤田さんの顔を眺めています。

 目も合わさない、話もしないということなら藤田さんのお邪魔にはならないのではないでしょうか」

 さらに、秘書に向かって以下のような殺し文句を放ったのだ。

「このメッセージが書かれたメモ用紙を見て、それでも“会わない”ということなら私は諦めて帰ります。ただし決して秘書のあなたが判断しないでください」

 さらに念を押して秘書にメモの内容を復唱までさせたという。

 結果、孫少年は藤田社長との面会を果たしたのだ。

 著者の川上氏は、こうした孫氏の「殺し文句」についてこう語る。

「今回、いろいろな殺し文句を分析した結果、10の法則を見出しました。『相手のプライドをくすぐる』『相手の利益を語る』等々。ただ、そうした言葉のテクニックも重要ですが、やはり本気でぶつかる、ということも重要なんです。孫氏のエピソードはその好例だと言えるでしょう」

 孫社長との会談後のトランプ氏は、実に上機嫌に見えた。もちろん、巨額の投資という手土産があったからだろうが、それ以外にも何か心を揺さぶる一言があったのかもしれない。

デイリー新潮編集部