斎藤佑樹、10年目の「覚醒」はあるか 残された時間は少ないが、可能性も…

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 プロ入りから来季で10年。日本全国にフィーバーを巻き起こしたあの夏は、もう13年も前の出来事になる。“ハンカチ王子”の名で一世を風靡した斎藤佑樹が、2年連続未勝利と崖っぷちに立たされている。

 早実では、夏の甲子園で駒大苫小牧の田中将大(現ニューヨーク・ヤンキース)との史上2度目となった決勝再試合の死闘に勝利して全国制覇を果たし、進学した早大では東京六大学史上6人目となる通算30勝と300奪三振を記録した。4球団の競合の末、ドラフト1位で入団した日本ハムでは、1年目から先発ローテーションに入って6勝をマークし、プラスワン投票でオールスターゲームにも出場した。2年目には開幕投手に抜擢され、完投勝利を挙げて期待が高まったが、6月に自身のバースデー勝利となった5勝目をマークしたのを最後に、斎藤佑樹の“苦難”が始まった。

 5勝止まりに終わったこの年のオフには、侍ジャパン強化試合のキューバ戦で代表に選ばれたが、右肩痛を訴えて登板を回避。検査の結果、右肩の関節唇損傷と診断された。その後は不振が続き、3年目からの7年間でわずか4勝しか挙げられず、18、19年は未勝利に終わった。戦力外の危機も囁かれ始める中、今年12月2日の契約更改では、現状維持の年俸1600万円でサイン。会見では「来季も期待していますと話してもらいました」と笑顔を見せ、これまでの9年間のプロ野球生活を「長かったし、あっという間でもあった」と振り返った。

 来季で区切りのプロ10年目を迎える斎藤。苦難が続くかつてのスター選手について、野球解説者の大野豊氏はこう分析する。

「甲子園で投げ合った田中将大は高卒でプロに入って、今はメジャーで活躍している。かたや斎藤佑樹は、ハンカチ王子と呼ばれて、あれだけ騒がれたけど、大学に行った後、日本ハムで苦しい状況が続いている。高校時代の田中は荒々しかったけど、のびしろや先の成長を感じさせた。逆に斎藤の場合は、高校時代にすでにある程度、出来上がっていた印象で、大舞台の経験が豊富でマウンドさばきも非凡なものがあった。プロに入ってからも少しは数字を残したが、今はもう、かつての斎藤佑樹ではない。以前はストレートも140キロ台後半の球速が出ていたが、そのストレートはもう投げられない。残念だが今の斎藤は、魅力があまり感じられない投手になってしまった」

 原因は言うまでもなく、プロ2年目に発症した右肩の故障にある。大野氏は続ける。

「今の投球フォームを見ると、明らかに肩を壊したな、という投げ方になっている。故障した後は、いろいろフォームを変えるなど試行錯誤を重ねて、今のように肩にかかる負担が少ない投げ方になったのだろう。故障の影響でストレートの威力が落ちた分、現状では、いわゆる変化球投手になっている。変化球でタイミングをずらすなど、いろいろなボールを使うことでなんとか乗り越えようとしているが、小手先の投球ではごまかしが効かないのが、プロの世界。頑張って欲しいし、このまま終わって欲しくないと思うが、ボールの質を見ると、かなり厳しいと感じる」

 かつての栄光が大きければ大きいほど、転落した時の苦悩も増す。大野氏は脚光を浴びた投手ゆえの心理面も分析する。

「ピッチャーは常に、自分がもっとも状態がいい時の、最高のボールを投げた時の感覚がずっと頭に残っている。故障などでそれができなくなっても、明日は、来年には、とんでもないボールが投げられるようになっているかもしれない、という思いが常にある。斎藤もそれをずっと追い求めて、なんとかそのボールを投げようといろいろ努力しているはずだが、おそらく投げられていない。本人にとっては、相当ストレスになっていると思う。斎藤は全盛時の投球からモデルチェンジを行っている状況にあるが、年齢によるものではなく、故障によっての転換期なので、それもある意味、難しいところかもしれない」

 生き残りに向けて、やるべきことは何か。選択肢は少ないが、可能性はある。

「スピードは落ちたとは言え、ピッチャーというのはまずストレート。これをしっかり投げ切った上で、あとは変化球をどう操るか。いずれにしても、これからは徹底したコントロールしかない。コーナーの四隅にきっちり投げ切れるコントロールを身につけて、ボールゾーンをうまく使いながら投球を組み立てる。本当にボール1個、半個というレベルで勝負して、バッターのタイミングをずらして打ち取ることができるかどうかだと思う」

 チームにとって、斎藤佑樹は必要な投手なのか。生かせる場所は存在するのか。昨季の日本ハムは栗山英樹監督が先発投手に短いイニングを任せるオープナーを採用して斎藤も起用されたが、大野氏はこう提言する。

「今は中継ぎで150キロをバンバン投げる投手はいくらでもいるし、現在の斎藤のボールではリリーフは苦しい。先発でやっていくしかないだろうが、現状では1年間先発ローテーションというのも現実的ではない。谷間の登板やここぞという試合で結果を出して、そこからスタートしていくしかない。とにかくユニフォームを着ている間は、チャンスがあるので、悔いは残さないようにやってもらいたい。これまでいろいろ苦労をしてきて、それを乗り越えてきた部分も多いはずなので、もうひとつ上の段階で活躍する姿を見せて欲しい」

来年で32歳になる斎藤佑樹にとって、残された時間はそれほど多くはない。「何かを持っている男」の10年目の覚醒に期待したい。

週刊新潮WEB取材班

2020年1月1日掲載

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