「秋ドラマ」13本総点検 辛口コラムニストが珍しく泣いた希少な作品は?

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「同期のサクラ」は泣けた

 そしてラストは、3段落も書くことが見つかった作品群。これまたコメントが長いから褒めてるというわけでもないので、悪しからず。

●「G線上のあなたと私」[TBS系/火曜10時~]
●「モトカレマニア」[フジ系/木曜10時~]
●「4分間のマリーゴールド」[TBS系/金曜10時~]

 出揃ってきた視聴率で見ると「G線」と「マリーゴールド」が7%台、「モトカレ」が4%台で、全艦そろって轟沈の沈没の艦隊。ワタシに言わせりゃ出撃前から水面下の潜水艦隊でしたが、放送が始まってからも浮上せずでしたね(原潜か!)。「G線」と「マリーゴールド」は録画率が悪くないという言い訳も聞こえてくるけれど、だからスポンサーも我慢してますって話は耳にしません。

 で、この3本の共通点は、どれも原作がコミック、それも少女漫画じゃない大人向け漫画であることで、特に出来がひどかった「G線」と「モトカレ」の原作は「Cocohana」と「Kiss」連載のF1層(20~34歳の女性。含む自称自任)向けコミック。知り合いの漫画編集者に言わせると、「あの分野の原作はもう掘り尽くされちゃってるでしょ」とのことで、その理由は「昔っから才能が集まるのは、少年誌、青年誌、少女誌で、それ以外は元々タマが少なめ」だから。

 一方、「モトカレ」と「マリーゴールド」が沈んだ大きな理由は看板女優のキャスティング。新木優子が主演です、主人公は菜々緒ですと啖呵切られたところで、「押しの強い事務所ですね」「押しに弱い局ですね」以外の感想が浮かびません。そのあたりのお姉ちゃん連と「G線」主演の波瑠を一緒にしちゃ悪いような気もするけど、彼女もここのところ出演作のチョイスが滑り続け。事務所は連ドラ主演の椅子取りゲームに、局は連ドラ主演のショバ売り商売に精を出すなか、出演者と視聴者とのマッチングは忘れられたままです。

●「同期のサクラ」[日テレ系/水曜10時~]
 10-12月期、見てて涙が流れたのは、この「同期のサクラ」だけ。2017年の「過保護のカホコ」と同じ脚本・遊川和彦、主演・高畑充希、プロデュース・大平太というチームの再結集作(しかもワタシの苦手な黒木瞳は出ない)だけに、放送スタート前から期待していて、それが裏切られなかったという点でも稀少な1本でした。

 恋愛の気配もありつつのお仕事ドラマ、洒落っ気ゼロで不器用で眼鏡の奥の座った眼が一途な女の子という、いつもの高畑キャラ……などと括ってしまうと、すでにあった作品の焼き直しに思えるでしょう。が、主人公の高畑は基本、意識不明で病院のベッドに伏せたまま、脇のキャラクターたちの回想で物語は進み、高畑がなぜ寝たきりなのかもなかなか明かされないという凝った構成が効いて、話にも高畑にも飽きることがない。離島出の高畑が東京の土建屋に就職して故郷の島に橋をかけようと奮闘するという、なんだか昭和臭い設定がまた、今どきの現実世界の若い人たちの可哀相なくらいの真面目さに釣り合っているのもいい。

 視聴率は初回が8%台だったものの、その後だんだん上がって全話平均はなんとか2桁に届いた。続篇なり同じチームによる新作なりに続いていけそうな数字でひと安心ながら、難解でもなければ、とっつきにくくもないドラマだっただけに、もうちょっと伸びてもよかったんじゃない? ……と心では思ってはみたものの、頭で考えてみれば、この作品を自分たちの話だと受け止める独身・就職10年目未満くらいの世代は、もはや連ドラを見ない層。実際にTVに齧りついてたのは、「ああ、自分たちも昔はこんなに熱く仕事してたよねぇ」という60代以上のリタイア世代だったか?

 そのあたりを意識したのか、ドラマ内でも高畑に両親はなく、祖父の津嘉山正種に育てられたという設定。このふたりの交流がまたよかったゆえ、高畑は今度のドラマで、朝ドラの「とと姉ちゃん」以来ちょと久々に、「お孫さんにしたい女優ナンバーワン」に躍り出たのかもしれません。

 ……あ、「同期のサクラ」には4段落もコメントしちゃったけれど、いいと感じた作品について長く語れるのは嬉しいもんです。一方、今クールのプライム帯民放連ドラでは唯一、あの「グランメゾン東京」(TBS系)に触れてなくて、でも、それはすでに別の記事で延々と嘆き、残念がり、もったいながってみせてるから。よろしければ、そちらもどうぞ。

林操(はやし・みさお)
コラムニスト。1999~2009年に「新潮45」で、2000年から「週刊新潮」で、テレビ評「見ずにすませるワイドショー」を連載。テレビの凋落や芸能界の実態についての認知度上昇により使命は果たしたとしてセミリタイア中。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年12月25日掲載

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