「秋ドラマ」13本総点検 辛口コラムニストが珍しく泣いた希少な作品は?

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

Advertisement

日テレの変態ラインナップ

 続いて今度は、コメントが2段落に増えるくらいに語ることのあった4本。

●「シャーロック」[フジ系/月曜9時~]
 留学先の英国で食べたビーフシチューを日本に戻った後に東郷平八郎が帝国海軍向けに再現させたのが肉じゃが……って話はどうやら眉唾らしいとして、このドラマがつくられると知ったときに頭に浮かんだのが、このエセ蘊蓄。で、放送が始まってみたら食卓に供されたのは、もちろんシチューではなく、でも、肉じゃがでさえなかった。

 和製ホームズのディーン・フジオカは、ま、ビーフじゃなくてチキン程度だろうなと予想してた自分は褒めてあげたいけれど、和製ワトソンのEXILE岩田に芋レベルを期待していた自分は叱り倒したい。彼が大根、それも青臭い青大根であることは既知衆知だからね。結果、ビーフシチューでも肉じゃがでもない鶏大根、それが和製「シャーロック」でした。「和製ナニナニ」に傑物なし。

●「まだ結婚できない男」[関西テレビ制作・フジ系/火曜9時~]
 初回から最終話までそれなりに楽しく見ていたので、世に失敗作という評が多いことは残念だけれど、理解はできる。オリジナルの「結婚できない男」(2006年)は全話平均の数字が16・9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区:以下同)で最終回が22・0%っていう成功作ゆえ比べりゃ劣りするのは仕方ないとして、ただ、ドラマとしてのつくりが今回そこまで“ど劣化”してるとは思えない(実際、タイムシフト視聴率≒録画率はけっこういいんです)。

 じゃ、なんで続篇はフツーの世帯視聴率で10%割れに終わったかを考えてみるに、変わり者で毒舌屋の中年建築家が主人公の恋愛コメディーという枠組みが、今の空気にそぐわなかったのかなぁ。13年前よりずっとニッポンは疲れて、老いて、貧しい国になっていて、高等遊民を演じる阿部寛のトンチンカンを笑い、愛する余裕がなくなったか。結果、「喜劇=悲劇+時間」っていう作劇の公式が引っくり返り、このシリーズの場合、「喜劇+時間=悲劇」になっちゃった。阿部ファンとしても残念至極。

●「ニッポンノワール─刑事Yの反乱─」[日テレ系/日曜10時30分~]
 日テレの「日曜ドラマ」枠は年明けから所管が読売テレビに移るそうで、この作品が日テレ制作最後の「日曜ドラマ」。だからなのか、この枠で日テレのドラマ関係者がやりたかったこと、やり残したことを集めてブチ込んだような、ドロドロに濃くて具材が山盛りの二郎系あるいは家系のラーメンを思わせるドラマでした。「喰える奴だけ喰え!」ならぬ「見れる奴だけ見ろ!」。

 そういう挑戦を喜んで受け入れる胃袋の強靭なドラマ狂が現在ただ今のニッポンにさてどれだけいるか。その答えを探るというマーケティング上の目的があったんじゃないかとさえ勘ぐれるくらい、ブッ跳び暴れ回り駆け抜けた作品でしたが、最終回の視聴率は全話最高の8・1%を記録。これは制作の日テレや主演の賀来賢人だけじゃなく、連ドラ愛好家の皆さんにとっても悪くはない結果だったかと。

●「俺の話は長い」[日テレ系/土曜10時~]
 1時間枠で2話、呑気な短いエピソードが流れるつくりは、まるで深夜ドラマの2本立て上映。考えてみりゃ、1時間ドラマは、YouTube慣れした世代には大長篇だし、CM枠で話が何度もブチ切られるのは、YouTube見ない世代にもツラい。日テレが「俺の話は長い」で試みた実験は、視聴しての主観でも、視聴率や批評を眺めての客観でも、決して失敗じゃなかったと思います。もひとつ考えてみりゃ、平成の深夜ドラマだけじゃなく昭和の名作ドラマにも、30分モノがいくらでもあった。

「ニッポンノワール」が映画をTVに持ってきた系の異物なら、「俺の話は長い」は深夜ドラマをプライム帯ドラマ枠に持ってきた異物。今の日テレのドラマ責任者には異物挿入癖でもあるのかねと嬉しくなっちゃう変態ラインナップで、ノーマルプレイじゃ連ドラはもう駄目なんだという危機感が犇犇(←「ひしひし」って、こう書くんだそうな)。爪の垢を煎じて飲ませたら、冒険心極薄のお台場の同業者は引きつけ起こすかも。

次ページ:「同期のサクラ」は泣けた

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。