【伊藤詩織さん事件】現場ホテルのドアマンが目撃した山口敬之の「連れ込み現場」

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幼児の片言みたいに

 高輪署からドアマンに、「本件で話を聞きたい」とアプローチがあったのは、事件から少し経った頃だった。まだ逮捕状は握り潰されていないどころか、むろん出ていないし、中村部長も気付いていない。やってきたのは高輪署の強行犯係の刑事ら2人だった。社内の人間からその要請を聞かされたドアマンは最初、何のことだか思い当たるフシがなく、「記憶力があまり良い方とは言えず、思い出せる自信がない」と思ったという。

 捜査員はドアマンのところへやってくる前に、山口記者と詩織さんをホテルまで乗せてきたタクシー運転手から話を聞いていた。当の運転手は、「僕よりもホテルのドアマンさんの方が話を聞いているんじゃないですか」と告げたというのだ。

 そんなやりとりを聞きながら、ドアマンの頭に当日の光景が生々しく蘇ってきた。聞かれもしないのに山口記者の風采を話し出した彼に捜査員は虚を衝かれたことだろう。「記憶力があまり良い方とは言えない」彼がどうして「15年4月3日のこと」を詳細に覚えているのか。それは、「ドアマン生活の中でも忘れられない出来事だったから」だ。

 では、ドアマンの「私の見たこと」や「私の調書」について述べていこう。

 2人が乗ったタクシーがホテルの玄関前に滑り込んできた時、日本のドアマンなら誰もがそうするように、彼もまた後部座席の左側のドアの方へ出向いた。陳述書にはこうある。

〈その時に手前に座っていた男性と目が合い、怖い印象を受けました。そして、奥に座った女性に腕を引っ張るようにして降りるように促していた〉

 遠のく意識の中でも詩織さんは懸命に運転手へ「近くの駅まで」と言ったが、山口記者は「部屋を取ってある」と返し、タクシーは彼の指示に従ってここまでやってきたのだ。

〈女性の方は(中略)「そうじするの、そうじするの、私が汚しちゃったんだから、綺麗にするの」という様なことを言っていました。当初、何となく幼児の片言みたいに聞こえ、「何があったのかな」と思っていたら、車内の運転席の後ろの床に吐しゃ物がありました〉

 車内で戻してしまったのだ。それから、山口記者は詩織さんの腕を引っ張って、無理やり車外へ連れ出そうという動きを取る。

〈女性は左側のドアから降ろされる時、降りるのを拒むような素振りをしました。「綺麗にしなきゃ、綺麗にしなきゃ」とまだ言っていたので、座席にとどまって車内を掃除しようとしていたのか、あるいはそれを口実に逃げようとしているのか、と思いました。それを、男性が腕をつかんで「いいから」と言いました〉

 車寄せからホテルのエントランスまでの僅か10メートルほどの距離も詩織さんには遠すぎたようで、

〈足元がフラフラで、自分では歩けず、しっかりした意識の無い、へべれけの、完全に酩酊されている状態でした。「綺麗にしなきゃ、綺麗にしなきゃ」という様な言葉を言っていましたが、そのままホテル入口へ引っ張られ、「うわーん」と泣き声のような声を上げたのを覚えています〉

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