「松屋」のカレーが390円から100円も値上げ 「鳥貴族」とは異なる“巧妙な手口”

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値上げの難しさ

 一方、消費者は冷静だったと指摘する声もある。noteプロデューサーでブロガーの徳力基彦氏(47)は12月3日、YAHOO!ニュース個人に「松屋カレー終売騒動で考える、炎上と話題化の境界線」の記事を掲載した。文中で徳力氏は“大炎上”を否定している。

《実際に松屋の創業ビーフカレー定番化のツイートには、終売ツイートに対する批判の声も多数投稿されているものの、喜びの声も多数ありますし、そもそもコメント数は数百件であり、見た感じ「大炎上」というほどの状況にはなっていません》

 徳力氏は冷静な筆致で《松屋のコミュニケーションが成功だったのか失敗だったのかは、本日10時から発売が開始される創業ビーフカレーの売れ行き次第とも言えるかもしれません》と指摘した。

 そして3日の販売日から、1週間以上が過ぎた。現在のツイッターはどのようになっているだろうか。「松屋 創業カレー」の2語で検索してみた。

《最近やたらカレー食ってるんだけど、いまんとこ松屋の創業カレーが一番うまい》

《美味しかった。前のも好きやったけど、これまでのより創業カレーの方がいいや》

《松屋創業カレーとてもおいしかったです》

《松屋の創業カレーうまかったわ ココイチより好き》

 もちろん絶賛の嵐というわけではない。《松屋の創業カレー、言われているほど??って感じだった》と疑問視する声や、《待ちに待ってました感出すけど、ただ単にカレーの値上げしたかっただけでしょ》と批判的なツイートも目立つ。

 しかし、“大炎上”や“炎上”という状態から遠いことは間違いない。ツイッターでは様々な意見が活発に呟かれ、消費者が松屋の創業カレーに高い関心を持っていることが伝わってくる。

 これまで外食産業が値上げに踏み切ると、「失敗だった」と経済メディアに指摘されることが少なくなかった。最近の具体例として、そのタイトルをいくつかご紹介しよう。全て電子版だ。

◆「『値上げの許容範囲を超えた』大戸屋、連続客数減地獄で危険信号…復活は困難かもしれない」(ビジネスジャーナル:11月20日 ※佐藤昌司氏の署名記事)

◆「鳥貴族とQBハウスで分かれた『値上げの明暗』」(PRESIDENT online:12月2日 ※永井孝尚氏の署名記事)

◆「『いきなり!ステーキ」失速 相次ぐ値上げと大量出店の誤算」(NEWSポストセブン:12月4日 ※有森隆氏によるレポート)

◆「吉野家が勝ち、鳥貴族は転落。2019外食チェーン戦争の勝者と敗者とは」(週刊SPA!:12月9日 ※馬渕磨理子氏の署名記事)

 それでは外食産業の専門家は、松屋のカレー値上げを、どう評価するのだろうか。フードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏に分析を依頼すると、「大成功と言えるのではないでしょうか」との指摘が返ってきた。

「消費者に不評の値上げは、原材料費や人件費の高騰を、そのまま価格に転嫁させるパターンです。味もサービスも変わらないわけです。どれだけ正当性があっても、たった数十円の値上げであっても、消費者は『高くなった』と納得してくれないケースが目立ちます。松屋さんの場合は、特に100円の値上げと決して、決して少額ではありません。しかし並盛で490円と“500円玉=ワンコイン”以内にとどめました。そして何よりも、前のカレーと味が断然、違います。前は薄っぺらい感覚でしたが、今はしっかりと深い旨味を感じます。これだけ美味しくなれば、消費者は納得してくれます。値上げのお手本と言っていいほどです」

 カレーの美味しさが大炎上を防いだということなのだろうか。千葉氏は「これまでの390円という価格は、そもそも安すぎました」と振り返る。

「2009年、すき家が350円だった牛丼の並盛と、380円だったカレーの並盛を、共に330円に値下げします。これを契機として、2010年代は吉野家、松屋、すき家の3社で安売り合戦が勃発しました。牛丼が250円で販売されていた時期もあり、決して健全なビジネスとは言えませんでした。松屋のカレーがずっと390円だったのも、その名残です。消費者も今回の値上げに対して、どこかで『適正な価格に戻って、商品が美味しくなった』という理解を示しているのではないでしょうか」(同・千葉氏)

週刊新潮WEB取材班

2019年12月20日掲載

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