ドン・キホーテに異変 「ユニー」子会社化で“目利きのできる社員”が消える悪影響

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目利きがいなくなる

 なぜ、ユニーの社員は辞めていくのか。

「総合スーパーのユニーは、東海地方ではトップのスーパーで、社員も名門大学出身が多くプライドがあった。ディスカウントショップは自分たちとは同列ではないという意識を持っていました。そんな彼らにとっては、ドンキの給与・人事制度についていけなかったと言われています。ドンキは数字がすべての完全な成果主義です。半年ごとに業績が評価されますから、年俸制ではなく“半俸制”と言われるほど厳しい。業績が前期を下回れば給与は即減額、大きく下回ったら即降格です。近くにライバル店ができたとか、天候などは一切考慮されません。年収が200万円減ったり、店長が売り場担当者に降格されたりすることは日常茶飯事です」(同)

 PPIHは昨年の秋、ユニーを買収することを発表した。それ以後、大原氏はユニーの若手社員を集めてランチミーティングを実施した。現場社員の質問に答え、不安を払拭するのが目的だったが、

「ランチミーティングに参加した後、すぐに辞めた人もいます。ユニーの社員が、『50歳の役職者で年収はどのくらいか』と質問したところ、大原氏は『50歳以上の役職者は一人もいない』と答えたからです。総合スーパーでは50代の店長は珍しくありませんが、ドンキでは、20代、30代が店長になっています。30代で残っている社員は、商品を仕入れる際に“目利き”ができるベテランです。40代、50代まで残る社員は少ない。その歳まで残れる社員は役員候補です。ドンキには退職金もありませんし、労組もない。ユニーの社員は将来に不安を感じて、次々と辞めていったわけです」(同)

 ユニーからドンキへ業態転換した店は、12月で29店になる。これらの転換店には、ドンキから優秀な人材が注ぎ込まれているという。

「ユニーの業態転換は、PPIHはとって失敗が許されない案件です。ドンキでキャリアを積んだ30代の優秀な人材が次々と転換店に異動になっています。ドンキは個店主義といわれ、仕入れから売り場作り、価格設定の権限を各店舗に委ねています。売り場の担当者が仕入れと価格決定を行うのですが、仕入れの際、売り場担当者は上司で“目利き”ができる商品のスペシャリストに、売れる商品をセレクトしてもらっています。スペシャリストが転換店へ次々に引き抜かれてしまったのです」(同)

 スペシャリストがいなくなったせいで、安く売る商品のセレクトに異変が起きているという。

「目利きの社員は、価格が高くても必ず売れる商品を熟知しています。それに比べ、新米の担当者は何が売れるかわからないので、安く売れるものばかりを仕入れて、粗利を落としています。結果、ドンキの特長である安いものと高いものの、両方の品がそろっている売り場が減少しているそうです」(同)

 ドンキは、取引先と店舗がパソコンを使って直接取引する、ダイレクト商談システムを導入している。

「ダイレクト商談シムテムには、賞味期限切れが近いものや棚落ちのスポット商品も発注できます。ドンキでは、安く売っても利益が取れるスポット商品の構成比を4割にするのが基本にしていて、これが価格を安くできる秘密です。ところが、売れ残り品にはどんなに安くしても売れないものが多く、これこそ目利きが必要になってきます。最近のドンキは、売れないスポット商品をさらに値下げして売っていると取引先から指摘されています。そのため店舗の売り上げが落ち込み、20年6月の業績予想も、初めて経常利益と当期利益が前期比マイナスになる見通しになったものと思われます」(同)

 PPIH広報室に取材を申し込むと、

「大原前社長は本人の申し出により、9月25日付で弊社グループ全ての役職を辞任しておりますが、しばらくは英気を養った上で新しい道を摸索していくとのことです。ユニーの業態転換店舗に、ドン・キホーテの人材を派遣しております。ただ、既存店の売上高は100%で推移しており、売上が落ち込んでいることはございません。20年6月期の業績予想で経常利益と当期純利益が前年度比マイナスになったのは、ユニーを連結子会社化したことに伴う『負ののれん発生益(93・2億円)』が特別利益として計上された特殊要因によるものです」

 ユニーの子会社化は、吉と出るか凶と出るか。

週刊新潮WEB取材班

2019年12月18日掲載

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