自殺者続出で厚労省が発表「パワハラ指針」に見るマニュアル化社会の愚

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ない方がマシ

 その一部を掲載の表にまとめたが、いかがだろうか。

 まずは、パワハラに「該当する例」を見てみると、〈殴打、足蹴りを行う〉〈相手に物を投げつける〉。これは単なる傷害案件である。〈性的指向、性自認に関する侮辱的な言動を行う〉ともあるが、今どき、「お前、ゲイだよな」なんて発言が容認されないのは誰だってわかる。〈別室に隔離〉〈無視〉がマズイのもわかるし、〈嫌がらせのために仕事を与えない〉もしかり。〈私物を撮影〉に至ってはストーカーまがいの行為だ。いずれにせよ、「パワハラ」かどうかと迷う以前に、およそ許容されないと一目瞭然の言動だけが並んでいるのである。

 他方の「該当しない例」も、〈誤ってぶつかる〉から始まって、〈遅刻などが改善されない場合、一定程度強く注意する〉、〈繁忙期に通常業務より多い業務の処理を任せる〉、〈了解を得て、個人情報について、人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す〉といったレベルのものなのだ。

「こんなものなら、ない方がマシです」

 と、日本労働弁護団前幹事長の棗(なつめ)一郎弁護士は言うし、

「指針に示されているような明らかな暴力を振るう人は少ないし、いればその時点でクビでしょう」

 とは、特定社会保険労務士の野崎大輔氏である。

「実際の職場では、教育的指導とパワハラとの境界線上でトラブルが起きている。セクハラは性的で業務外の言動が主ですからわかりやすいのに対し、パワハラは業務の延長線上にあることが多く、曖昧で線引きが難しい。その狭間で悩んでいる人々にとって、こんな当たり前のことは少しも参考になりません」

 とバッサリなのである。

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