稲葉ジャパン、東京五輪で待ち受ける3つの難題 過去には中日6選手が辞退も…

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 日本の初優勝で幕を閉じた世界野球「プレミア12」。日本が世界の主要大会で優勝を果たしたのは2009年の第2回WBC以来10年ぶりのことであり、来年の東京オリンピックに向けて大きな弾みとなったことは間違いない。いまだ成し遂げていないオリンピックの金メダルに向けて、プレミア12で浮き彫りになった、稲葉篤紀監督が率いる「侍ジャパン」の収穫と課題を振り返ってみたい

 今大会で最大の収穫と言えるのは、リリーフ陣に目途が立ったことだ。抑えの有力候補だった松井裕樹(楽天)が肘の不調を訴えて出場辞退したが、その穴を埋めたのがルーキーの甲斐野央(ソフトバンク)だ。5試合に登板して1本のヒットも許さず、出した走者は四球のわずか一人。奪三振も7をマークする圧巻のピッチングでセットアッパーの一角に定着したのだ。ストレートは150キロ台後半のスピードをマークし、決め球のフォークも140キロを超えるスピードから鋭く落ちる必殺のボール。ほぼこの二つの球種だけで打者を封じ込めていた。

 甲斐野とともに輝きを見せたのが、パ・リーグの最優秀防御率に輝いた山本由伸(オリックス)だ。ストレートやカットボール、フォーク、カーブ、いずれのボールも一級品で、先発の時以上の凄みを見せつけた。この二人が7回、8回を抑えて、9回は実績のある山崎康晃(DeNA)という継投に持ち込むことができれば、かなりの高い確率で勝ち切ることができるのではないか。

 次に大きかったのが4番に座った鈴木誠也(広島)の活躍だ。全8試合で安打を放ち、うち7試合で打点をマーク。打率.444、3本塁打、13打点で大会MVPにも輝いた。これまでの日本の打線は外国人投手の動くボールに苦しむことが多かったが、鈴木は高いミート力でしっかりと対応することができている。また、長打力に加えて選球眼の良さと脚力も兼ね備えており、ポイントゲッターとしてだけでなくチャンスメーカーの役割も果たしていた。まさに“万能型の主砲”と言える。

 野手でもう一人大きな収穫となったのが足のスペシャリストである周東佑京(ソフトバンク)だ。今年育成選手から支配下登録され、打率は1割台ながら25盗塁をマークした俊足が評価されての代表入りだったが、その期待に見事に応えて見せた。圧巻だったのがスーパーラウンド初戦のオーストラリア戦だ。1点を追う7回裏、無死一塁の場面で代走として起用されて二盗を決めると、ツーアウトとなった後には再び盗塁を決めて三塁を陥れる。そして源田壮亮(西武)のセーフティバントの間に快足を飛ばして同点のホームを踏んで見せたのだ。この周東の走塁がなければ、日本の決勝進出はならなかった可能性が高く、まさに日本を救う活躍だったと言える。東京五輪でも1点が欲しい場面で切り札として期待できる。

 ここまでは日本の良い面、収穫を述べたが、東京五輪に向けての課題は決して少なくない。まずは先発投手の問題だ。今大会は山口俊(巨人)、高橋礼(ソフトバンク)、今永昇太(DeNA)、岸孝之(楽天)の4人が先発を任されたが、プエルトリコ戦の高橋以外は不安定なピッチングが目立った。いくらリリーフ陣が強力とは言っても、先発がしっかり試合を作ることができなければ当然話にはならない。どのようなローテーションを組むかを再考する必要があるだろう。

 野手陣では国際大会で常に言われていることではあるが、圧倒的に長打力が不足している。チームが放った4本塁打のうち3本が鈴木に集中しており、他にポイントゲッターとして確実に機能している選手は見当たらなかった。プレミア12では登録メンバーが28人だったが、東京五輪では24人に減るため、選手の調子を見ながら起用する余裕はない。いかにして外国人投手相手にも打力を発揮する選手を発掘できるかがより重要になるだろう。

 そして、最大の懸念点がチームそのものの編成問題だ。今回もコンディション不良などの理由で多くの選手が出場を辞退し、ベストのメンバーで臨むことができなかった。過去にも09年のWBCで代表候補だった中日の選手6人全員が出場を辞退するようなことも起こっている。ましてや来年のオリンピックはペナントレース期間に行われるため、慎重な姿勢を見せる選手、球団も出てくる可能性もある。地元開催のオリンピックで金メダルを目指すことの意義、価値をいかに訴えることができるのか。最終的にはそこに全てがかかっていると言っても良いのかもしれない。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年12月2日掲載

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