少年野球「背が低い」「早生まれ」の選手は本当に不利なのか

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指導者が子どもが「楽しむこと」を嫌う理由

 少年野球を含め、広く野球の現場を見ている勝亦さんなので、“パパコーチ”として現場で覚えた違和感についてさらに聞いてみた、「野球における長時間練習、そして、やらされ感」のことである。

 ポジションだって、言い渡されて決まるのだから、やらされ感があってもおかしくない。

「子どもが『俺、ここやるっ!』と主体的に決めることになったら、指導者にはそれが遊びのように見えるのかもしれません」

 土日(両方とも終日ということは珍しくない)を無償で割く指導者たち。社会的、地域的な活動として意義は充分にある。だが……。

「大人が子どものために時間を割くことに対して、子どもからの見返りを求めていないでしょうか。だから子どもが笑顔だったりすると、真剣じゃない、気合いが足りないと、真剣な自分(大人)の行動に見合わないという思いを抱くのかもしれません。でも子どもの成長のためには、子ども自身が楽しむこと、主体的に行動することこそ大事なのですが」

 ううむ。「大人(親も含め)が勝ちたい」のが少年野球なのか。「子どもがやりたい」ものではないのか。そう“パパコーチ”としての悩みを話すと、「試合に負けたら子どもも『次は勝ちたい』と言います。そこで指導者は『勝てるような練習をしよう』と。それでバントを決められるようになろう、ボール球を打たないように練習しよう、ヒットエンドランでゴロを打てるようにしようなどと言います。短期的な効果として『勝利』は得られるかもしれません。しかし、そういう細かい練習をして勝とうとすることが、長期的に考えて、その子たちの野球選手としての将来にどこまで効果があるのか疑問です」

 確かに子どもそれぞれの「投げる、打つ、捕る、走る」の能力、つまり野球をやる上で根本的なところを伸ばした方が、良いだろう。その方が、有望な選手がたくさん生まれる気がする。

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 どうしたって大人は子どもの「いま」を見て判断してしまいがちだが、「お前は背が小さい、小回りが利く、セカンドだ」「背は小さいが足は速いな。じゃあとにかく打つときは転がせ」と、決めつけては身体が大きくなったときの可能性を摘みとるも同然である。

「機会を提供すれば、子どもは伸びるはずです」と勝亦さん。本当にそうだ。子どもがやりたいことをやる場があるべきだと筆者も思うのである。

 自分がやりたいポジションを守り、サインなどなくて打ちたいように打つ。そういう時間もあってほしい。少年野球、いや子どものスポーツ全般かもしれないが、勝ちたい欲求の前に、これは理想論で現実的ではないのだろうか。

 子どもの中には、能力の多様性も可能性もたくさんある。だから見守る気持ちでいるしかない……わが子のゆっくりとした成長を思い出しながら、そう納得する“パパコーチ”なのであった。 

池谷玄(いけたに・げん)
四十路のライター。趣味はプロ即戦力候補が格安で見られる大学野球の観戦。球歴はソフトボールから少年野球、中学野球部、高校の野球部(硬式)まで。最近好きな選手は福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐選手。

2019年11月30日掲載

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