雅子皇后、即位の礼は20年前の苦難を乗り越えた“復活”の儀式

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宮中祭祀でも役割を果たそうという意思を示され

 即位の礼の当日に話を戻そう。この日、宮中三殿では「正殿の儀」に先立ち午前9時から「即位礼当日賢所大前の儀」と「即位礼当日皇霊殿神殿に奉告の儀」が執り行われた。天皇も皇后も祭服は純白だ。「純白」は心身に穢(けが)れがまったくない状態で神々にお仕えするということをシンボリックに表している。賢所ではまず、天皇陛下が天照大神に対して、この日を迎えたことを感謝申し上げ、そのお加護をいただいて正殿の儀に臨む旨を奉告された。陛下が「お告げ文」を奏(そう)されると、天照大神が鎮座されているという「内々陣」から「シャン、シャン、シャン」というお鈴の音が響く。10分間も続く。これは当然ながらマスコミに公開された映像にはない。女性の内掌典が鳴らしているのだが、天照大神が陛下にお応えになっていることを意味していると言われる。位置づけは「私的行為」とされているが、午後からの正殿の儀と一体となった厳かで重要な祭祀なのだ。皇后さまも天皇陛下に続いて、異なる所作で拝礼された。

 その皇后さまはこの日、午前7時頃、天皇陛下よりも一足先に宮中三殿に入られた。潔斎を済まし、おすべらかしに髪を結い、時間をかけて純白の十二単に似た祭服をまとわれた。着替えに時間がかかることもあり、お帰りも天皇陛下より後だった。ご病気だった皇后の雅子さまにとって、宮中祭祀の負担は軽くはない。女性である皇后やこれを補助する女官は「月のもの」があれば宮中三殿には入れない。過去にはこうした事情で拝礼されないこともあった。平成の途中まで祭祀を担当した元掌典職の幹部が言う。「宮中祭祀は基本的には天皇がなさるものです。だから宮中祭祀のすべてに皇后さまが臨まれる必要はありません。しかし、この日の祭祀は皇后さまにとっても、一度だけの特別なものでした。お疲れだったとは思うが、役割をしっかり果たそうとのご意思を感じました」。

椎谷哲夫(しいたに・てつお)
元宮内庁担当記者。1955年、宮崎県都城市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。新聞社で警視庁、宮内庁、警察庁、旧運輸省などを担当。米国コロラド州の地方紙で研修後、警視庁キャップ、社会部デスク、警察庁を担当。40代で早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程修了。著書に『皇室入門』(幻冬舎新書)など。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月5日掲載

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