アンガールズ田中、キモキャラ芸人の覚悟 カニの化け物のものまねでキャラ変

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 山里亮太(42)と蒼井優(34)の結婚発表は世間に衝撃を与えた。山里は「よしもとブサイクランキング」で殿堂入りしたこともあるほどの「キモいキャラ」で知られている芸人だった。そんな彼が美人女優との電撃入籍を果たしたことで、「実はキモいと言われている芸人は、本当はキモくないのではないか?」という論調が出てくるようになった。

 実際、一昔前と比べると世間でも山里を嫌う人は減っているような気がする。いまや山里は多数のレギュラー番組を抱える押しも押されもしない売れっ子であり、頭の回転の速さと的確なツッコミには定評がある。「キモい」というイメージを隠れみのにしているだけで、もはや実績としては超一流の芸人だ。

 だからこそ、山里の実力を知る芸人仲間は口を揃えて「山里が蒼井さんと結婚するのはそれほど不思議なことではない」と語っていたのだ。

 このとき「次に結婚して世間を驚かせる芸人は誰なのか」というのがマスコミで話題にのぼった。そこで最も多く名前が挙がっていたのがアンガールズの田中卓志(43)だった。田中も山里と並んで「キモいキャラ」だと思われているが、隠れた実力者として業界内では評価の高い芸人である。彼らは親交も深く、かつては一緒に合コンに参加して惨敗し、2人で慰め合ったほどの仲だった。山里が結婚できたのだから、次は田中にもチャンスがあるのではないか。そういう風に言われていたのだ。

 実際、スペックだけを見れば、田中は決して悪くはない。むしろ、「高身長、高学歴、高収入」という、かつては理想の結婚相手の条件と言われていた「三高」をすべて満たしている。しかも、芸人としても長い間テレビに出て、結果を出し続けている。

 ひな壇系のトーク番組で活躍するのはもちろん、体を張ったリアクション芸でガリガリの体をくねらせて笑いを取ることもあるし、ネタ番組では解説役として的確な評論をして見る人をうならせたりもする。さらに、コンビではネタ作りを担当していて、その笑いのセンスも評価されている。芸人の中でもこれだけマルチな才能を持った人間を探すのは難しいほどだ。

 そんな田中は、デビュー当時はそれほど「キモい」とは言われていなかった。むしろ、アンガールズは「キモかわいい」というキャッチコピーで知られる、おしゃれな脱力系コンビだったのだ。細くてなよなよした2人の外見が一見するとちょっと不気味でもあるのだが、どこか癒やされるかわいらしさもある、という風に見られていたのだ。

きっかけは「カニのものまね」

 ところが、ある時期から、特に田中に対しては女性から「キモい」という評価がつきまとうようになった。その決め手となったのがカニのものまねである。

 ある番組で、先輩芸人であるネプチューンの堀内健(49)が、田中に対して「カニの化け物のものまねができるんだよな」と無茶ぶりをした。田中がそれに乗っかって、カニのものまねをしたところ、本来持っていた気持ち悪さが増幅されて見る人に強い衝撃を与え、いつのまにか「キモいキャラ」として認知されるようになっていった。

 当然ながら、田中自身も好きでキモくなったわけではない。最初は「キモいキャラ」としてイジられることに戸惑いを感じていたようだ。だが、ある時期から田中自身も「これだけキモいキモいと言われるなら、言われっぱなしで終わるわけにはいかない」と思い、開き直るようになった。

 そこからは、あえて気持ち悪さを強調するような話をしたり、スタジオ収録中に女性客ばかりの観覧席に飛び込んだりするようになった。この思い切った居直りの精神こそが、田中をキモキャラ芸人として不動の存在にした。

 田中はいまや「誰よりも頼りになる芸人」としてスタッフからの信頼も厚い。特に印象的だった場面がある。9月19日放送の『アメトーーク!』(テレビ朝日系)では「イマイチ印象残らない芸人」という企画が放送されていた。ナイツの土屋伸之(41)、かまいたちの濱家隆一(35)など、今ひとつ印象が薄くて忘れられがちな芸人が、その悩みや苦労を語るというものだった。

 ここで、地味な彼らが少しでも印象を残せるように、ジェットコースターに乗るという企画が行われた。彼らがジェットコースターに乗って怖がったり驚いたりしている様子がVTRで流されたのだが、やはりインパクトに欠けていた。

 そんな中で、最後に比較対象として、印象に残りやすい芸人の代表格である田中が挑戦する映像が流された。これがすさまじい内容だった。

 風圧で髪型も頬のラインも乱れまくり、白目をむいてゾンビのような顔面になっていたのだ。挙げ句の果てに、そのままよだれを垂らした。田中の壮絶な様子を見て、スタジオでは悲鳴と大爆笑が巻き起こった。ただジェットコースターに乗っただけでこれだけ笑いが取れる芸人がほかにいるだろうか。

 誰だって他人から「キモい」などと言われたくはない。たとえ芸人でもそれは同じだ。「キモい」と言われ始めたとき、田中だってきっとそれを受け入れたくはなかっただろう。それでも、彼は自身の気持ち悪さと正面から向き合い、それを笑いを取るための武器にすることを選んだ。芸人でもここまでの覚悟ができる人はなかなかいない。

 例えば、出川哲朗(55)や狩野英孝(37)のことを思い浮かべてみてほしい。彼らは、一挙手一投足にスキがあって他人にイジられまくる無類のイジられキャラではあるが、本人たちはいたって真面目であり、自分にイジられるような弱みがあるとは思っていない。もちろん、彼らの場合、その意識のズレこそが笑いにつながっているのだが、言い間違いなどのミスをどれだけ指摘されてもそれを受け入れられていないのは事実だ。イジられキャラの芸人でもそのぐらいが普通なのだ。

 だが、田中はあえて「キモい」の銃弾を真正面から受け止めた。すさまじい覚悟である。今のテレビに出ている芸人は、みんな器用で有能な人ばかりだ。ツッコミが得意な人、ボケが得意な人など、言葉を巧みに操って笑いを取る人はたくさんいる。でも、そんな中で田中はあえて「キモい」という汚れ役を引き受けて、それによって笑いを生み出すことにした。

 ときにはわざとキモいと言われるような言動を取って、自ら死地に飛び込み、プライドを捨てて笑いをもぎ取っていく。イジられて戸惑ったり怒ったりして「守りのキモさ」を発揮する芸人はほかにもいるが、田中のように「攻めのキモさ」を貫ける人は本当にめったにいない。そういう意味でも貴重な存在なのだ。

 銃弾飛び交う戦場では「1人が死ねばみんなが助かる」という局面がある。田中は、笑いの戦場で誰よりも先に身を投げ出して死に向かう。「キモい」と言われることで場を盛り上げて、そこにいる全員を救ってみせるのだ。

 幸か不幸か、田中のこの「男前ぶり」は世間にまだ気付かれていない。今の田中はスタジオでもロケでも重宝するユーティリティプレーヤーではあるが、実力の割にMCの仕事は少ない。順調に行けば、ここから数年のうちに潜在能力が評価され、MCにステップアップしていく可能性は十分ある。仕事でも私生活でも「山里の次は田中」と言われるのは当然のことなのだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)など著書多数。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月4日掲載

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