「レンタルなんもしない人」が1回1万円の有料化 本人が語る“理由とお客の反応”

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「なんもしない人」のレンタルが有料化。依頼の数は……?

「ヒモだ、家族が可哀相だ、とあまりにも言われるものだから衝動的に決めました。1万円はパッと頭に浮かんだ金額ですけど、シンプルでちょうどよかったと思っています」

 この日から、「レンタルなんもしない人」は有料になった。1件につき1万円。これは大きな変化だ。1万円あれば、飲食店で豪華な食事もできるし、映画や舞台を見ることもできる。本やゲームソフトも十分買えるし、家事代行サービスを雇うことも、マッサージなどを受けることもできる。「なんもしないただ1人の存在」が、これらのモノやサービスに勝る価値を持たなければならなくなった。依頼の数にも影響があったのではないだろうか。

「数分で済むような“ちょっとした依頼”は減りました。学生さんからの依頼も減ったと思います。掃除を見守る依頼なんかは、1万円あれば業者に頼めますから。辛い経験をメールで送ったら『辛かったね』と返して欲しい……といった、ツイッターのダイレクトメールだけで済むような依頼もあんま来なくなりました。でも、依頼はコンスタントにあります。むしろ、すべての依頼に目を通して内容を検討できるぐらいの、ちょうどいい数に落ち着いたと思います。もともと依頼の数が増えすぎて何らかの線引きを設けたいと思っていたところだったので、(批判に対する)怒りがいいきっかけになったと思います。『なんもしないこと』の価値を検証すると言いながらお金を設定していない状況では『タダだから依頼が来るんじゃないか』と言われることもあって、じゃあ、料金をとってみたらどうなるのかというのも興味があったので」

 有料化してから約1ヵ月。有料で受けた依頼の数は約60件。無料の時に引き受けた依頼と並行して、1日3~4件の依頼を毎日途切れることなくこなしている。

「僕の方の心構えも変わりました。活動を始めた頃の、依頼自体がうれしかった頃に戻った感じです。最近は依頼が多すぎて、“おっさんレンタル”(※編集注:1時間1000円でおっさんをレンタルできる他社サービス)との違いを考えて、“なんもしない人”が必要そうなものを中心に引き受けるようになっていたんですが、依頼の選別がしんどくなっていたところもあります。今は何でも前向きに引き受けられますね。無料だからこその気楽さは失われましたが、自分の内面の変化が新鮮で面白いので、それほどストレスは感じていません」

 懸念していた「お金を払うことによって芽生えるお客様意識」のようなものも、今のところは感じていないという。

「依頼者の態度や接し方にこれまでとの違いは感じていません。逆にお金を払うからこそ頼みやすくなったと言ってくれる人もいます。無料だと『面白い依頼じゃないと申し訳ない』と思う人もいたみたいなんですが、1万円払うから気を遣わなくていい、面白い依頼じゃなくても遠慮なく依頼できる、という人も少なくないです」

 有料化したのだから当然といえば当然だが、「ヒモ」「ちゃんと働け」という内容の批判も森本さんの元には届かなくなった。

「たまにわけわからない人が『金とりだしたのか、乞食』『何もしたくないくせに金はとるんだな。クズからスーパークズになったな』とか言ってくるんですけど、家計についてとやかく言われることはなくなりました。逆に『安心した』『ちゃんと生きていけるようになったんですね』と好意的なメッセージをくれる方もいます」

 有料化した後も順調に続いている「レンタルなんもしない人」のサービス。今後の展開として、何もしない人を派遣するような事業拡大なども考えているのだろうか。

「ないですね。レンタルするのは自分のみです。飽きたら別の形になるかもしれませんが……いつまで続けるか、どんな形に変わっていくのか、はっきりと決めるのではなく、その時の気持ちに任せて動いていきたいですね」

 なんもしないひとは、良くも悪くもなんも考えていないのだ。

森下なつ/ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年10月28日掲載

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