少年野球の子どもたちの顔が「暗い」理由――慶應義塾高校野球部を甲子園出場に導いた前監督が自戒を込めつつ分析

池谷玄 少年野球の現場で悩む父親ライターの正直な報告 ライフ 2019年10月26日掲載

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 少年野球の“パパコーチ”として過ごす筆者の土日。夕方5時前、そろそろ練習終了かという頃に始まるダッシュ、5本、10本――「苦しさを乗り越えろ」とばかりに続く。

 アップ、キャッチボール、打撃練習、守備練習、紅白戦等々、すでに子どもたちは疲れていそうである。「みんな、自分から取り組んでいる感覚はあるんだろうか。“やらされ練習”になっているんじゃないか」と毎回不安になるのである。

 鍛えるのは悪くないのだけれども、要するに“やらされ”ムードに違和感がある。「泣き言なんか言うならやめちまえ、軟弱野郎!」と言われそうだ。しかし泣き言(違和感)は取材の原動力。で、取材してみた。

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医師の訴え「少年野球がたいへんなことに!」

「少年野球の子どもたちの顔、暗いですよね。『何でもっとキャッキャ言ってやらないんだろう』って思いますよ」

 そう話すのは、慶應義塾高校(以下、慶應)野球部前監督で、2005年、45年ぶりの甲子園出場に導いた上田誠さんである。上田さんは、2015年に監督退任後、少年野球の現場を見て回った。少年野球の選手を診ている医師たちの声に促されたからである。「少年野球、たいへんなことになっています。子どもの肘を手術しているんです!」

 実際、現場を見て唖然とすることの連続だったという。たとえば指導者の罵声。「なんでストライク入らねえんだッ」等々。タバコを吸いながらの指導。1日4試合もするチーム。3試合に投げた選手がもう1試合にはキャッチャーで出場したり。打者は一球一球、監督の顔色を窺うようにサインを確認する……。

「高校野球の指導者として、僕もひどいことをしてきたんですが」と悔いつつ、「ここまではしなかったなと。たとえば(少年野球の指導者は)ものすごく『上から目線』で話しますよね。でも子どもを怒鳴ったら失敗を恐れて萎縮してしまう」と負の一面を指摘する。

年間230試合を“自慢”する指導者

 上田さんが講演をしたときのこと。「ありえない」例として年間180試合もこなす少年野球チームについて言及したところ、講演後の懇親会でこう言ってくる人がいた。「先生、ウチは230試合やっているよッ」

 少年野球チームのベテラン指導者らしかった。自慢げだったのだが、「異様です。1年365日、どうやって230試合もやるのかと思いました」(上田さん)

 間違いなく、酷使が生じているはず。酷使するのは医学の知識がないから、罵声を浴びせるのは、スポーツ心理学の知識がないから。そこで2017年、上田さんは、指導者への情報提供のためにと「神奈川学童野球指導者セミナー」を立ち上げた(学童野球とは軟式のボールを使うもので、少年野球と同義)。

 肘や肩のケガ、熱中症対策など、子どもたちを支える医師、高校や大学といった上位のカテゴリーの指導者、元プロ野球選手の講演からなるセミナーを開催している。年1回のセミナーに初回は500人、2回目は600人ほどが集まったという。

 でも来てくれるのは、時代に合った方法を模索する“良い指導者”であるらしい。「230試合もやっているチームの指導者は来てくれないんです。指導者の世代交代はなくて、必要な知識やトレーニング方法がなかなか浸透しません」(上田さん)

「俺のようなベテランにもう勉強は不要だ!」ということなのか。

 以下は“パパコーチ”の印象論である。

 罵声を排したコーチング、酷使の予防を含めたコンディショニングといった新しい知識に関心があるのは、ベテランの指導者より、“パパコーチ”の方である。子育ては今とこれからの社会を意識してせざるを得ない。だから時代の変化には敏感になる。また社会人としてはパワハラNGが叫ばれるただ中にいるから、罵声が熱心さや愛情に基づく指導だとは到底思えない。

 一方、ベテラン指導者の中には仕事から引退している人も少なくないはず。そうした方面には暗くなりがちなのではと思ったりする。

 上田さんがこう言う。「少年野球はずっと“放置”されてきたところなんですよね」

 放置というのは、外部からの視線にさらされる機会が少なかった状況を指す。以前取材した関係者は「少年野球は最後の無法地帯ですよね」と断言していた。私がそのことを話すと上田さんは笑いつつ、「治外法権です、本当に」と言うのだった。

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