【超・実践的DV脱出マニュアル】今これを読んでいるDV被害者の皆さん、あなたは間違っていない、逃げていい!

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一番の問題は、相談に来ない人

――なぜ相談しに来ないんでしょうか?

遠藤:いろいろな理由があります。何もしてくれるはずがない、何もできるはずがないと思ってる。支配が強くて、自分が悪いとしか思えない人も来ませんし、単純に情報がない人もそうですね。だから役所の女子トイレなんかにカード置いたりしているんですけれどね。役所のような行政の公的機関が苦手な人もいますし。

――児童虐待事件などで「子どもを救えなかった」というニュースがこれだけあると、結局ダメなんだと思ってしまうこともあるのかもしれませんね。

遠藤:でもね、野田小4女児虐待事件のニュースの後は、「うちの夫もそうじゃないか、自分も怖くて助けられない、加担しているかもしれない」という相談が相次いだんです。私の周りでもあれをきっかけに離婚した女性が2人くらいいます

 あまり語られていませんが、虐待と DVは 一セットであることが多いんです。児童虐待の数では、「面前DV」が1位ですから。

――「面前DV」というのは?

遠藤:子どもの面前で、モラハラも含むDV行為が行われること。これは児童虐待として警察が子どもを一時保護できる理由になります。私はよくDV被害者にも聞くんですよ。「あなたが殴られている時に、お子さんはどこにいるの?」って。そうするとたいていの被害者が、「自分の部屋に」とか「聞こえない2階に」とか「気を付けています」とか答える。いやいやいや、そういうことじゃないでしょ、と。DVが始まる時には、ピーンと張り詰めた空気が家の中を支配する、そのあたりから子どもは「何かおかしい、今日も始まるかもしれない」と感じて、ドキドキしてきたり不安になったりして、すごい精神的な影響があるのよって。見ていないとか聞こえないとか、そういう問題じゃない。ものすごい豪邸にすんでいて100m先の部屋にいるならまだしも、狭い家の中でその気配を感じ取らないはずがないんです。それは面前DVという児童虐待ですよ、と。そういう人は「虐待なんてしていません」と言いますけれどね。

――DV被害者が「DVじゃない」もしくは「面前DVじゃない」と言い張るのはなぜでしょうか。

遠藤:DVされているような妻だと思われたくないんですよね。ある種の自尊心ですが、それは「DVを受けるほうが悪い」という思考の裏返しなんです。だから被害者には「あなたはぜったいに悪くない」と伝えます。百歩譲ってあなたが夫に罵詈雑言を浴びせていても、言葉ではかなわないからと夫が暴力を振るったら、それはもう夫が悪い、犯罪です。

 自分が被害者とされること、自分の夫(子どもの父親)が加害者、犯罪者とされることを嫌がる人もいますが、私はあえてそういう言葉を使います。あなたがどう思おうと自由だけれど、社会はこれを犯罪として見るし、だからあなたを助けるんだと。夫と妻という個人的な関係を、加害者と被害者という社会的な形で認識しなおさないと、DVから脱出しません。私はあなたの友達でも何でもない、でもこうして助けるのはそれが仕事だから。私には助ける義務と責任があり、あなたには助けてもらう権利がある。そう伝えると自分を客観視できるようになります。

――「面前DV」はそれだけ多く報告されているのに、DVそれ自体が顕在化しないのは、そういう、認められない思考回路に理由があるのでしょうか?

遠藤:縦割り行政の弊害もありますね。児童虐待は文部省、DVは男女平等・人権分野なので内閣府、自立のための生活再建のための福祉は厚生労働省で、これがうまく連動していないんです。

 10年くらい前だと、DVの被害者支援をやっていると、児童虐待の担当者から「母親は加害者だ」と憎まれました。そうなっているのは母親も虐待されているからなんだけれど、「でも自分が虐待されているからって、自分が虐待していい理由にはならない」と。話が通じませんでした。でも野田の事件では「母親のくせに子どもを見殺しにして」という意見は、そこまで多くは出なかった。少しずつ変わってはきていると思います。

 全部つながっているんです。被害者支援をやっている人間は、なかなか加害者に触れられない、加害者を容認するのかと言われてしまうんですが、加害者対策、加害者更生支援だって大事なんですよ。でもこれは本当に根深い問題なんですよ。男性を変えるということは、社会を変えるということだから。でもそこに手を付けないで放置したままでいたら、ザルみたいなもので、いくら被害者を逃がしても次から次へと再生産されますから。

 私はそもそも、DVという問題について、もっと開かれるべきだと思うんです。プライバシーに関しては気を付けなければいけないけれど、 DV とはどんなものか。加害者とは、被害者とはどんなものなのか。そこから逃げるということはどういうことか。そういうことについて公に話すことなしには、問題が「そこにあるもの」として認知されていかないと思うんですよね。

遠藤良子氏
NPO法人くにたち夢ファーム理事・女性の居場所Jikka代表。2000年より、東京都国立市の市民運動支援の拠点として「スペースF」を運営。その経験を活かして開始した自治体の女性相談員としての活動で、DVや貧困などの困難を抱えた女性の自立支援の必要性を痛感。2016年に同NPOを立ち上げる。小さな民家を改装して作られた「Jikka」は、「女性がいつでも安心して帰れる場所」という思いを込めて作られたオープンスペース。DV被害女性たちの脱出や、新しい住居を賃借する手助けをすると同時に、地域に定着する過程での孤独を癒す場所としての機能を持つ。 http://kuf-jikka.sakura.ne.jp/wp/

取材・文/渥美志保

2019年10月25日掲載

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