台風19号・救助ヘリから40メートル落下の77歳女性遺族への補償の行方

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 助かる筈の命だった。緊急出動した救難ヘリが、台風19号の被災者である77歳女性を収容目前、地上40メートルから誤って落下させてしまったのだ。東京消防庁の発足以来、前例のない事故と聞けば、遺族への補償はどうなるのか。

 台風一過の今月13日、福島県いわき市は紺碧の空に覆われた。雲ひとつなく視界は良好。地上からも真っ赤な塗装の救難ヘリがよく見えたという。それだけに悲劇を目の当たりにした人たち、特に残された遺族の衝撃は察するに余りある。

 社会部記者が解説する。

「現場は浸水で孤立集落となってしまい、亡くなった女性のご主人が救助を求める通報をしたそうです。それを受け出動したのが、東京消防庁の救難ヘリ『はくちょう』でした。被害甚大の福島を支援するため、ヘリはこの日の午前8時に都内を飛び立ち、福島空港で待機していた。搭乗していたエアハイパーレスキューの隊員たちにとっては、今回の台風被災地で初の救助活動だったそうです」

 午前10時前、現場上空に到着したヘリからは、隊員2名がロープで降下。さっそく収容作業に入った。

「通常は救助者を地面に座らせてから作業を始めるところ、現場の家屋は50センチ程水に浸かっていました。そのため隊員は女性を濡らすわけにはいかないと、抱きかかえた姿勢で作業を続けたので、命綱に金具を固定するのを忘れてしまい、本来すべき隊員同士の確認点呼も怠ったそうです」(同)

 故に東京消防庁は会見で誤りを全面的に認め、遺族に謝罪の意を表明するに至る。今後、県警と運輸安全委員会が正式に過失認定をすれば、公的に遺族への補償がなされるという。

「東京消防庁の職員という公務員の過失で生じた事故ですから、国家賠償法に基づく請求が行われます」

 とは、損害賠償請求に詳しい渥美陽子弁護士だ。

「国賠法の1条1項には、〈公務員が、(中略)故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる〉と定められていますので、遺族は東京消防庁を所管する都へ請求する形になります。慰謝料を求めるとなれば、損害額を確定するため法廷で争うこともありえます」

 行政訴訟を手がけてきた弁護士の若狭勝氏が言う。

「国賠訴訟における損害額は、一般的な交通事故と同様に亡くなった方がどれだけの収入があったかを考慮します。我々の間では『赤い本』と呼ばれる日弁連交通事故相談センターが作成した基準が適用されることになると思いますが、77歳の高齢者なので、理屈の上では2千万円前後で落ち着くと考えられます」

 仮に補償が下りたとしても、なんともやり切れない話というしかあるまい。

週刊新潮 2019年10月24日号掲載

特集「『狂乱台風』生と死の人間学」より

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