國分文也(丸紅株式会社取締役会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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外務省の人事

佐藤 当時の外務官僚の場合、マーケットバリューは何かと言ったら、政治家マーケットです。それともう一つ、情報(インテリジェンス)業界というマーケットには強かった。

國分 日本が一番弱いところですね。

佐藤 私は外務省に専門職、つまりノンキャリアで入ったんですが、ノンキャリアでも入省14年後にキャリアに登用できる制度があったんです。これは年次が5年落ちるキャリアです。それを私の場合、初めて13年目に登用することになった。

國分 そんな仕組みがありましたか。

佐藤 でも私は浪人して大学院も行っていますから、8年落ちのキャリアになる。役所で8年落ちると、どこかの大使にはなれますが、絶対に本省の局長にはなれない。だからそれは魅力的でなく、辞退するかわりに、自由にやらせてほしいと三つの要望を出した。

國分 ほう。

佐藤 まず私の指示で部署横断的なチームを作らせてくれと言った。これは2重のラインを作ることだから、組織としてやってはダメなことです。2番目には部屋を要求した。部屋があると溜まり場ができて、強力なグループができます。そして三つ目は、報償費(機密費)を青天井でつけて欲しいと。そうしたら、青天井はできないけど局長級の50万円はつけましょう、それ以上使うときは相談してくれ、となった。そして他の要望も通ってしまったんですよ。絶対通らないと思ったのに。でも、外務省のキャリアのコースに乗せることに比べれば、私の要望はうんと小さなことだったんです。

國分 カンパニーバリューから意識的に外れたわけですね。

佐藤 そうです。私が勘違いしていたのは、コースに乗らずキャリアとの棲み分けができたから誰も私を脅威だと思わないだろうと考えていたことです。でもそうじゃなかった。やはり首相官邸などへしょっちゅう出入りしているのは、他の官僚にとって脅威だったようですね。また私のチームのメンバーが政治家と接触して業績を上げていくから、人事的に優遇されていく。これに対するヤキモチもあって、私が厳罰を食らうことになったんじゃないかと思います。

國分 なるほど。そういうカルチャーなんだな。

佐藤 入省時に面接官から「専門職員」で我慢できますか、と聞かれたんです。その枠で受けている以上、それはそれでいい。次に、あなたの信念と役所の信念が違った時にはどうしますか、とも質問されたんですね。私は「その時になって考えます」と答えましたが、振り返ってみて、やはり人事を担当する人は、その人間が将来、何かしでかすってわかるんだな、と思いましたね。でもあの時、外務省は省内の同質化現象がよくないと思って、ちょっと変わった人間を入れようということだったかもしれない。

國分 それなら見識があったということですね。

採用したくない人

佐藤 國分さん、社員の採用に当たっては、どういう人に来て欲しくないですか?

國分 ちょっと青臭い言い方をすると、夢のない人は嫌ですね。一つ一つ積み重ねていってここまではやれるだろうな、というのはみんなあるでしょうが、全然違う高みを見ている人を採りたいですね。それと、どんなに優秀でも、できないことを人のせいにする人間。

佐藤 エリートにありがちですよね。

國分 会社が悪いとか、社長が悪いとか、あるいは社会が悪いとか、自己責任という考えができない人は来て欲しくない。あとは、感謝ができない人。この三つくらいですね。

佐藤 逆に欲しい人は?

國分 自分の頭で考え、自分で責任を持って、自分で行動できる人。そして何に向って行動しているかがはっきりしている人。また商社パーソンですから、あえて言うと気配りという意味での「忖度」も必要です。

佐藤 忖度は重要ですよ。普段は気配り、思いやりとされていることを、今は犯罪の匂いを纏わせて言うと忖度になる。

國分 僕らの仕事は気配りができないと通用しない。

佐藤 外務省時代、来て欲しくなかったのは、国益という発想がない人でしたね。いくら優秀でもそれは困る。外務省にとっても、本人にとっても、日本国民にとっても不幸です。

國分 僕も入社式の時などに言うのですが、どんなに小さくても背中に日の丸を意識しろって。そこは企業であってもナチュラルに持ってないといけないと思う。

佐藤 外務省の仕事で付き合った商社の一人がこう言っていました。「私たち商社パーソンは、数字だけ追いかけているように見えるかもしれませんが、やはり国益を考えているし、日本がバカにされると悔しく感じる。我々が仕事できているのは、後ろに日の丸があるからです」って。

國分 それはその通りで、数字だけ、という仕事はあり得ませんよ。日本を一歩出たら、日本代表という感覚は持っていないと。

佐藤 でも数字だけ見ている人は多い。今は本を書く仕事ですから、編集者と付き合う生活ですが、出版社に本を読まない人が入ってくるようになった。そういう人って出版社とともに投資銀行やコンサルタント会社を受けている。数字、つまり給料がいいからです。みんな優秀です。ただ彼らは自分の仕事に関係する本しか読まない。

國分 仕事に限らず、自分の興味のあるところ、あるいは自分の考えに沿った情報しか取ってこないという傾向は全体的にありますね。

佐藤 そこには“デジタル”が関係しています。今、高校や大学で教えていますが、紙の辞書を持っている生徒の方が志望校に合格出来るんです。同じように紙の百科事典を引いている学生の方が出来がいい。理由は簡単です。辞書を開くと、関係ないところまで見るからです。百科事典も電子ならクリック一つでわかるけれど、関連項目までは見ない。紙だと目に入る。そうやって紙で習慣がついた子は、電子になっても関連項目を見るようになるんです。

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