今や「吉野家」のメニュー数は松屋、すき家と互角 3社を比較して判明した“意外な数字”

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「牛丼が売れると困る」現状

 これを防ぐためには価格ベースで計算すればいい。3社のメニュー合計価格に対し、各カテゴリーの合計価格で割合を算出してみた。それを表にまとめたので、ご覧いただきたい。

 表からは「吉野家は牛丼だけ、カレーがあるのは松屋だけ」というような、極端な品数の違いは過去のものになったことがはっきりと分かる。

 そして各社とも「牛丼以外のヒット商品」を模索していることも伝わってくるが、最もドラスティックなのは吉野家だろう。何しろ全メニューに占める牛丼の合計価格は5・3%にしか過ぎないのだ。

 繰り返すが、今も売れているのは牛丼。あくまでも、このパーセンテージから分かるのは、「吉野家が牛丼に重きを置かなくなっている」ということだ。

 それでは、どの商品に力を入れているのかが分かるのが、その下の欄に記したベスト3だ。ここに牛丼が登場しないのは吉野家だけとなっている。客単価の高いカレーや鰻重のほうが、吉野家にとっては大切な商品だということになる。

 一方、昔と同じように「牛丼、カレー、定食」の3本柱を守っているのが松屋だ。そして丼を重視するすき家という構図になるようだ。

 では3社のメニューで、実際に高価格で販売されている商品を見てみよう。純粋に価格順で並べると、例えば松屋だと延々と定食が続いてしまう。そのため、各カテゴリーで価格の最も高い商品を選出し、そこからベスト3を作ってみた。

 トップは、吉野家が鰻重、松屋が定食、すき家がカレー、という顔ぶれになった。そして表に記した15品のうち、牛丼はすき家の「牛丼とん汁おしんこセット」(550円)しかない。消費者は依然として牛丼を愛しているが、大手3社にとっては「看板メニューから外してもいい」というのが本音なのかもしれない。

 フードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏は、「商業界オンライン」で8月19日から、安部修仁・吉野家ホールディングス会長(69)のセミナーでの発言を紹介する連載を開始している。その千葉氏に「吉野家の脱牛丼」について訊いた。

「安部会長は、BSE(牛海綿状脳症)感染牛問題で2003年12月から吉野家で牛丼を売ることができなくなったときに『牛丼は創業者の思いが作り出した姿だから、そのエッセンスを使って別の商品を表現すればできないことはない』と考えていたそうです。後継者となった河村泰貴・吉野家ホールディングス社長(50)が社長に任命されたとき、安部会長に『私は牛丼を止めるかもしれない』という発言をしたそうです。たとえ会社を発展させてきた看板メニューであっても、時代の流れに合わなければ切り捨てる決断力が必要であり、看板メニューに安住せず、貪欲に未来の人気商品を作り上げていくというメッセージでしょう。外食産業の現状が厳しいのは事実ですが、だからこそ拳拳服膺すべき経営方針ではないでしょうか」

 流通ニュース(電子版)は8月23日、「牛丼3社/7月既存店売上すき家のみ減、吉野家、松屋プラス」の記事を配信した。

 見出しの通り、吉野家と松屋は既存店でも売上が前年同月比で2・6%と7・2%の増となったが、すき家だけが1・4%減の“一人負け”となったという記事だ。

 データからは、“脱牛丼”を推し進める吉野家と“定食とカレー”へのシフトを鮮明にする松屋が勝ち、“牛丼”にこだわるすき家が負けたように見える。

週刊新潮WEB取材班

2019年9月5日掲載

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