「阿部詩」は柔道世界選手権でV2 お兄ちゃん、もう一度私を引っ張って

スポーツ 2019年9月1日掲載

  • ブックマーク

 日本武道館での柔道世界選手権、二日目の8月26日。三連覇を目指した阿部一二三(22)、二連覇を目指した詩(19)の兄妹(ともに日本体育大学)は明暗が分かれた。

 女子52キロ級決勝。開始30秒、詩は腰高のまま得意の袖釣り込み腰に入った。相手のN・クジュティナ(30 ロシア)はこらえたかに見えたが次の瞬間、その体は吹っ飛び背中から畳に叩きつけられていた。「一本、それまで」に詩は百万ドルの笑顔を見せ、観客席では神戸から駆け付けた父、浩二さんがこぶしを突き上げた。神戸市消防局に勤める二枚目の浩二さんは柔道選手ではなかったが水泳の元国体選手。運動能力は父譲りだ。今春まで通っていた詩の夙川学院高校(神戸市)時代には、交代制勤務の合間を縫い、練習が終わった愛娘を車で迎えに来ていた。

寝技の強化で増えた勝ちパターン

最大の難敵は準決勝のM・ケルメンディ(28 コソボ)だった。リオ五輪金。激しい攻防となったが阿部詩は延長3分15秒、場外際でもつれた瞬間、素早く横四方固めで抑え込んだ。顔をゆがめて必死に抑える表情が日本武道館の天井からつるされた大型スクリーンにアップになると、場内は再び感動に包まれた。

 国内のライバル志々目愛(25 了徳寺大職)はこの難敵に対して逃げ気味になり距離を取りすぎた。最後は「攻める意思なし」で三つ目の指導を取られて敗退していた。 

 これで阿部詩の対外国選手の戦績はなんと45戦全勝。何やらレスリングの吉田沙保里の連勝記録を思い出してしまうがどこまで行くのか。11月の大阪グランドスラム大会に優勝すれば東京五輪切符をほぼ手中にする。

 詩は「普通に強い、ではなく怪物と言われたい」という。怪物へますます近づいたが普段は笑顔の愛くるしいチャーミングな女性。「きれいな女性になりたい」も忘れない。

今年春、神戸市の神港学園高校から一足先に日体大に入った兄を追うように、同じ神戸市の夙川学院高校から日体大に入った詩。夙川学院で指導してきた松本純一郎監督(同校校長)も駆け付けていたが「素晴らしい試合でした。勝ちに持ってゆくルートが増えた。相手によって戦い方を変えてゆける。すごい進化。2年前まで『寝技はできない』なんて言っていたし苦手だったが、準決勝で見せてくれた寝技は素晴らしかった。8月に二度、神戸に帰ってきて調整していた。打ち込みを頼まれて久しぶりに受けてやったら高校時代より力を感じた。大学でいい指導を受けているなと感じましたよ」と愛弟子の活躍に喜んだ。恩師の言葉通り、阿部詩は今大会、5試合すべて違う技で勝っている。

次ページ:畳を掴む猿の足

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]