老母の財産を弁護士が管理、生活費を1円も渡さず… トラブル続出の「成年後見制度」

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母子を分断させる後見人

 弘子さんは17年3月にアルツハイマー型認知症の診断を受け、同年10月に千秋さんの兄が後見人をつける申し立てを金沢家裁に行った。

 後見利用の申し立ては本人、4親等内の親族、市区町村長などが行える。

 申立書は兄の代理人の弁護士が作成。その目的には、母・弘子さんの「施設入所」と「財産管理」のためと書かれていた。だが、

「兄と母は折り合いが悪く、“一日たりとも母と一緒にいたくありません”というメールを私に送ってきたこともある」(千秋さん)

 この申し立ての2カ月前、兄は、アルコール依存症の治療を名目として、母・弘子さんを厄介払いとばかりに石川県内の精神病院の閉鎖病棟に入院させ、その翌月には別の施設に入所させたという。

「兄は母が入った施設名すら私に教えてくれませんでした。母は以前から“施設に入るのは嫌だ。千秋のところに行きたい”と私や病院の医師らに話し、私も母との暮らしを望んでいました。兄が突然、後見を申し立てたのは、第三者の後見人をつけて、私が施設入所に反対するのを封じ込めるためだったと思います」(千秋さん)

 申立書には、千秋さんが母親との同居を言い出したのは、弘子さんの“財産目当て”だと決めつけ、弘子さんが「二度と埼玉には行きたくない」と拒んでいるとか、母親の財産管理を巡り兄妹間に対立がある、などと記載されていた。

 認知症の程度については「会話は可能だが意味不明」「家族が(だれか)わからないときがある」「1桁の足し算、引き算程度はできる」として、「高度認知症のため、回復の見込みがない」と書かれていた。

 だが千秋さんによれば、その当時、弘子さんの認知症は要介護1。介護認定の際に「病状があまりに軽過ぎて要介護ではなく、要支援しか出ないかもしれない」と病院側から言われたほど軽いものだったという。

「数時間前の会話の内容を忘れるなど短期記憶に問題がありましたが、会話は普通にでき、計算も足し算引き算はむろん、掛け算割り算を含め完璧にできました。申立書には“家族がだれかわからないときがある”と書いてありましたが、あまりにひどすぎます」

 17年12月、金沢家裁は、金沢市内の弁護士を弘子さんの後見人に選任した。

「この後見人の対応は当初からおかしかった。たとえば母は、私の長男をとても可愛がっていて、長男の大学卒業式には絶対に出たいと以前から話していた。その旨を後見人に伝えたところ“あなたと会うとお母さんが不穏になる。それでなくても施設で徘徊したり、昼夜落ち着きがない”と言って認めませんでした。それどころか、私と母の面会や電話すらも禁じたのです」(千秋さん)

 さらに、後見人が弘子さんを精神病院に再入院させようとしたことに千秋さんは危機感を抱いた。

「昨年5月、私は施設を訪問しました。母は“施設はいやだ。ここにいても幸せではない。千秋の家で一緒に暮らしたい”と話しました。私は母の希望に従い、母を埼玉の自宅に連れて帰りました」

 後見人は、施設に戻るよう繰り返し要求したが、弘子さんは帰らなかった。

 成年男女には精神障害のあるなしにかかわらず、住まいを自分で決める権利(居所指定権)が法的に保証されている。後見人がそこに介入することは許されない。

 これを受け、金沢の後見人は辞任、所管も金沢家裁からさいたま家裁に移り、昨年9月、冒頭の埼玉の弁護士に加え、社会福祉士が後見人に選任された。

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