「がん探知犬」を世界で唯一、育成する日本 尿や呼気から嗅ぎ分けるその実力は?

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 臭いをかぎ分ける嗅覚能力が人間の10万倍から1億倍と推定される犬は、これまで逃亡犯の足跡を追う警察犬、または、出入国の税関で覚せい剤等を発見する麻薬探知犬として活躍してきた。加えて近年、「がん探知犬」としての驚異的な能力にも注目され始めている。

「がん探知犬」の研究は欧米でも盛んだが、世界で唯一、「がん探知犬」を育成している機関が日本にある。千葉県館山市にある「がん探知犬育成センター」(株式会社セント・シュガージャパン)がそうだ。

 2012年に設立され、日本医科大学千葉北総病院(千葉県印西市)や九州大学医学部(福岡県福岡市)と連携を深めながら、昨年暮れまで、訓練、育成された「がん探知犬」(3~10歳)が5頭いた。それが今年春から、昨年の1月に生まれて成犬になった1頭を加え、全部で6頭になっている。

 これまで救助犬なども育ててきたセンター長の佐藤悠二氏は、

「1頭を育てるまで費用が1000万円ほどかかります。探知犬はすべてアイルランドで生まれた狩猟犬で、しかも、競技会のチャンピオンになった同士をかけ合わせて生ませた、血統種のラブラドールレトリバーです」

 と、語る。

 尿や呼気の臭いをかがせ、がんを特定する。がんの判定は、1検体につき3頭の探知犬で確認するという。排泄物や汗ならまだしも、がんに臭いがあるのだろうか。がんが発散する特有の臭い(物質)を突き止めたらノーベル賞にも値すると言われるが、

「毎日訓練を重ね、探知犬ががんを発見する確率は、ほぼ100%まで近づいております。早期がんの検診では、人体に負担がないがん探知犬の検査です。政府がセンター運営に少し援助でもしてくれますと助かりますけどね。最近では山形県金山町の町民検査が成果を残してくれました」(佐藤さん)

 人口6000人を割る山形県北東部にある最上郡金山町で、2017年から2年間、年間約1000万円の町予算を投じて、「がん探知犬」によるがん検診を実施した。金山町を含む最上郡地域の胃がん死亡率が、女性は全国1位(男性23位)である。町は、がん治療の医療費負担を軽減する目的で、がん検診に及び腰の町民に、簡単な「がん探知犬」の参加を呼びかけたのだ。

 全国の自治体で初の試みというアイデアである。希望する町民から尿を採取し、日本医科大学千葉北総病院を通じて、先のセンターで「がん探知犬」による検査が実施された。結果はどうであったか。

「2017年度は、921人が検体し、そのうち18人が陽性、精密検査で1人(子宮頸がん)が発見されました。翌年18年は、302人の検体で、22人が陽性、2人からがんが発見されました。今年はやっておりませんが、引き続き、がん患者のフォローは行っています」(金山町・健康福祉課)

 がん検診で、入院や血液検査、レントゲン、あるいはMRI等、医療機器の世話になることもなく、早期のがん発見が可能という「がん探知犬」。1人当たりの費用が4万円弱ほどで、全国から依頼が来ており、検診は約3カ月待ちだという。

取材・文/段勲(ジャーナリスト)

週刊新潮WEB取材班編集

2019年8月17日掲載

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